「地域への思い」を胸に悲願のB1昇格へ HCに聞く、○○はうちがNo.1 熊本編

下地麗子

熊本地震を知る者に託された思い

16年4月に発生した熊本地震が今もチームの強いモチベーションにつながっている熊本 【(C)B.LEAGUE】

 昨シーズンは、B2西地区2位、そしてB2プレーオフ3位で初の入替戦に進出した熊本ヴォルターズ。B1・B2入替戦では富山グラウジーズに85−88で惜敗したが、夢の昇格まであと一歩に迫った。

 今季の目標はもちろんB1昇格だ。

 そんな熊本を率いるのは、就任3季目、今季を集大成と位置づける29歳の若き指揮官、保田尭之ヘッドコーチ(HC)だ。

「うちのリーグNo.1は『地域への思い』です」

 保田HCからは、“予想通りの答え”が返ってきたが、その理由は“予想以上の思い”だった。

 2016年4月に発生した熊本地震、チームの強いモチベーションには、このときの出来事が今も強く影響している。

 当時アシスタントコーチ(AC)だった保田HCも、この地震で約1カ月間の避難所生活を送った。大阪出身の彼が、これまで以上に熊本の人たちと濃密な日々を過ごした時間。バスケットどころではない避難所生活の中で、彼に「リーダーシップとは何か」を教えてくれた人たちがいた。

 それは、避難所の「子どもたち」の姿。

 学校も閉鎖となった地震直後、子どもたちの中には、日中は親が仕事で子どもだけで過ごす者も少なくなかった。そんな小学生から高校生までの子どもたちと一緒に、ボランティア活動を行った保田HCは、24時間態勢で避難者のために動き続けた子どもたちを、こう振り返った。

「学校に行けない中でも、ポジティブに活動する前向きな雰囲気を子どもたちが作ってくれた。自分がボランティアに動けたのも、そういう姿を見たことが大きかったんです。避難者のために利益度外視で純粋に活動する子どもたちの姿に、これこそがリーダーシップだと感じました」

 その後、チームからHC就任を打診され、自分のキャリアプランよりもあまりに早い打診に迷いもあった。しかし、西井辰朗GMの「この地震を経験したスタッフにこそ、“復興のシンボル”として頑張ってほしい」という言葉と、「与えられた使命を純粋に果たす」子どもたちから学んだリーダーとしての思いが、“リーグ最年少のHC就任”へ背中を押した。

 そしてチームは、2016−17シーズン西地区3位、17−18シーズン西地区2位と、一歩ずつ夢の昇格に近づいている。

昇格実現で“復興のシンボル”へ

 今年6月、地震で大きな被害を受けた健軍商店街(熊本市)で開催されたブースター感謝祭には、1000人以上のブースターが集まり商店街を埋め尽くした。一歩ずつ「復興のシンボル」としても歩みを進めている。

「避難所で一緒に暮らした人たちが今でも試合会場を暖めてくれているように感じます。負け試合になっても称えてくれた人たちがいる、その思いに応えたいと思います」

 今季の熊本は、2季連続B2アシストランキング1位の古野拓巳や日本代表候補に名を連ねた中西良太、チームの精神的支柱・地元熊本出身の小林慎太郎が残留、いずれも熊本地震を経験し苦楽を共にするメンバーが残った。そして2季連続B2得点王のチェハーレス・タプスコットらスコアラーの加入も心強い。

 また、これまでシーズン序盤や中盤に選手の故障に泣いたことから、チームスタッフにストレングスコーチとアスレチックコーチを招聘(しょうへい)。夏場の体作りを強化し、開幕からプレーオフまでをタフに戦えるチーム作りを目指すチームは、早速アーリーカップ西日本優勝という結果を出した。

 保田HCはクラブへの感謝の言葉を繰り返し、今季への強い覚悟を語った。

「バスケットに集中できる環境があり、共に昇格したいと思える仲間がいる。これほど信頼できるチームはありません。そして自分のキャリアのためにチームにすがる思いは一切ない。今季昇格を果たせなかったら自分にやることはもうない、そういう覚悟で臨みます。『地域のために』全てを掛けられるHCはそうそういないと思います」

 保田HCは就任時に与えられた使命を純粋に果たそうと前を向く。果たして熊本は“復興のシンボル”になり得るのか。今季の戦いに注目だ。

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著者プロフィール

熊本県出身、元琉球朝日放送・熊本県民テレビアナウンサー・スポーツキャスター。現在、琉球放送スポーツキャスター。2016年結婚・出産を機に熊本から沖縄県那覇市に移住。旧姓 河合。ニュース番組を中心にキャスター・リポーター・ディレクターなどを務め、九州・沖縄をフィールドに取材活動を行う

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