連載:指導者として

【戸田和幸連載(8)】黄色のジャージを着て何を目指すのか Iリーグも最終盤、もう一度原点に

戸田和幸

Iリーグも最終盤を迎え……

もう一度原点に立ち戻り、「黄色のジャージを着て何を目指すのか」からやり直そうと思います 【宇都宮徹壱】

 早いもので今年も残り3か月となりました、2月から始まった慶應義塾大学ソッカー部Cチームとの付き合いも残りあと僅か、所属しているインディペンデンスリーグ(Iリーグ)も最終盤を迎えています。

 後期の闘いをざっと振り返ってみると。
 国士館大2−2、早稲田大2−3、法政大0−2、流経大0−1、産業能率大2−1、拓殖大0−3。
 どの試合も簡単なものではなく攻め込まれる時間は長かった、その中でもできる限り適切なポジショニングを心掛け、個人として闘う気概を持ちながらもグループとして対峙し上回る事を目指してきました。

 試合に臨む選手たちに僕から常々伝える事があります。
 それは「勝負は時の運」だという事です。
 どれだけ自分たちが準備してきた事を踏まえて勝利を手にする為に最善を尽くしたとしても、相手がそれ以上に素晴らしければ敗れるのが勝負の世界です。
 それとは逆にどれだけ自分たちのパフォーマンスレベルが低くても、相手がそれ以上に低ければ勝つ事もあります。

 相手があってこその試合であり勝敗、だから自分たちに出来る事だけに集中しようと。自分たちにコントロールできる事だけに意識を集中させようと伝えてきました。

 もし試合に敗れてしまったとしても、ある種の清々しさが残るような。
「俺たちに出来る事は全て出し切ったけど、相手が一枚上だったね」と素直に言えるような。そんなサッカーを、試合をしようという言葉をかけてピッチに送り出しています。

 実際のところ、好んで勝負の世界に身を投じ生きてきた人間なので勝敗に対する執着心はそれ相応に強いと自覚していますが、実際にプレーするのは学生達ですから出来る限りピッチに立つ事に対するプレッシャーを軽減してやりたいという気持ちがあります。

 精神的に試合を楽しもうというところまで辿り着ける選手はなかなかいませんが、せめてトレーニングで培ってきたものはきちんとピッチの上に置いて来られるよう、外から見守るしかない指導者として出来る事をしてあげたいという気持ちがあります。

 対戦するどのチームも、単純に選手個々の能力を見比べたら簡単には事は運ばないという事は僕と選手の間の共通理解として確実に持っています。

 変えられるものと変えられないものがあったとしたら、変えられるものにフォーカスする事で勝利できる確率はある程度のところまで高める事が出来ます。

指導者としてまだまだ

同じ土俵でがっぷりよつでは敵わない相手には、少しでも有利な状況を作ろうと取り組んできました 【宇都宮徹壱】

 では我々のチームで勝つための確率を少しでも高める為に出来る事はなにか。
 それは確立したプレーモデルを持ち、出来る限りその質を高め、幾つかのゲームプランを携えながら勇気を持ってプレーする事。

 これしかありません。

 実際にプレーする学生達がどれくらい自分達の目指しているものを信じてくれているのか。
 確かに実現させるのは簡単ではないけれども、そこに向かってトライ&エラーを繰り返しながら個人としてのレベルアップを図り、それをチームに結び付けていく。

 自分に出来る事は各個人を丁寧にチェックし、課題を与えながら改善を促す事。

 出来るまで根気強く取り組ませる事が大切、もちろん時にハッキリとした言葉で叱咤する事もあります。

 出来るまでやるよと、勝つまでやるぞと言い続けて今日まで各個人と向き合ってきましたが、自分自身と自分の言葉にどれだけの意味があるのかは選手の取り組みやパフォーマンスを見て判断するしかありません。

 というところで、ここまでの自分の指導を振り返り評価するならば、残念ながら落第です。

 選手たちのマインドを変え、ハートに火を点け、新しいサッカーに全力でチャレンジさせる。

 指導者としてまだまだです。

 学生たちは皆一生懸命に取り組んでくれていますが、上に記したような強豪校それもBチーム相手に「サッカー」をして結果を残すところまで到達したいのであればまだ足りない。

 幾つかのオーガナイズ、攻守における具体的な戦術行動、個人として隠れずに相手と対峙する気概、勝利への執着心。
 これら全てが揃わないと1部で勝つ事は出来ない事は痛いほど経験しました。

 確かに相手チームにはJの下部組織出身の選手が多く、皆身体つきもテクニックもスピードも違います。
 囲い込んでも簡単には奪えないし、ヨーイドンで走れば確実に負けます。

 同じ土俵でがっぷりよつでは敵わない、だから少しでも有利な状況を作りながら、ボールを両手で大切に扱う気持ちで、味方を信じて届けようと取り組んできました。

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著者プロフィール

桐蔭学園高を卒業後、清水エスパルスに加入。2002年ワールドカップ日韓大会では守備的MFとして4試合にフル出場し、ベスト16進出に貢献。その後は国内の複数クラブ、イングランドの名門トッテナム、オランダのADOデンハーグなど海外でもプレー。13年限りで現役を引退。プロフェッショナルのカテゴリーで監督になる目標に向けて、18年からは慶應義塾大学ソッカー部のコーチに就任。また「解説者」というサッカーを「言語化」する仕事について、5月31日に洋泉社より初の著書『解説者の流儀』を出版

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