「想定外」の連続に苦しんだ全日本男子 重要な個々の成長、東京五輪へ今が正念場
2勝3敗、1次ラウンド敗退に終わった日本
2勝3敗で世界選手権を終えた日本。2次ラウンド進出はかなわなかった 【Insidefoto/共同通信イメージズ】
3−0か3−1でアルゼンチンに勝利しなければ2018男子世界選手権の2次ラウンド進出が断たれる1次ラウンド最終戦。1−1で迎えた第3セットは序盤から柳田将洋、西田有志のサーブが走り14−8と先行。土壇場からの勝利で2次ラウンド進出を果たすのではないか。そんな淡い期待を打ち消したのは、相手の高さでもパワーでもなく、これまでも何度も直面してきたウィークローテーションで1点をもぎ取ることのできない弱さだった。
日本はセッター藤井直伸のサーブから始まるS1ローテを17−13と4点リードで迎えた。レフトから打つ西田か、ライトからの福澤達哉か。はたまたミドルの伏見大和か、柳田のバックアタックか。理論上はいくつもの選択肢がある中、アルゼンチンは日本の攻撃枚数を減らすサーブでその選択を絞る。福澤、西田が立て続けに止められ18−17とじわじわその差を詰められた。
ラリーの応酬を繰り返し、デュースにもつれた第3セットを32−30で制し、両手を突き上げてガッツポーズをするアルゼンチンの選手たちと対象的に、肩を落とし、膝に手をつき、うなだれる日本の選手たち。
2勝3敗で1次ラウンド敗退という、目標に掲げたベスト8には遠く及ばない結末。中垣内祐一監督は悔しさとともに、厳しい現実をかみ締めるように言った。
「次のラウンドに進んでトップのチームと試合ができるかというと、正直なところ、まだそういうレベルではなかった。これはわれわれも重く受け止めないといけないし、われわれのすべきバレー、やってきたバレーが最後まで出せなかったことが大きな課題です」
幾多もの予期せぬ出来事に見舞われ、もろさやほころびがあらわになる。男子バレー日本代表にとって2大会ぶりの世界選手権は、結果だけでなく1つ1つを乗り越える過程も含め、厳しく、苦しい戦いとなった。
李が負傷により緊急帰国、その影響は大きく……
大竹(写真中央)が入る布陣など、さまざまなオプションを用意してきた日本だが、李の離脱は大きな影響を与えた 【写真は共同】
西田の負傷を受け、大竹壱青が入る布陣や、柳田、福澤、石川祐希と3人のウイングスパイカーがレフト、オポジットに入る布陣をオプションとして試してきたものの、昨季からのテーマであったミドルからの攻撃回数を増やし、決定率を向上させてきた李の離脱は想定外であり、与えた影響は計り知れない。
だが、起きたことは変えられない。初めての世界選手権を本意ではない形で後にすることになった李の悔しさをおもんばかれば、いつまでも「李がいれば」と言うわけにはいかない。代わりに入った小野寺太志、伏見も試合を重ねる中で持ち味を発揮し、藤井も「誰が入ってもミドルを使うことは変えたくない」と言い、自身の持ち味であるミドルからの攻撃を軸にしたバレーを展開してきた。
しかし、試合が進むにつれてまた別の問題も生じる。想定外の出来事に対処すべく、いくつものオプションを作ってきたとはいえ、あくまでこれまでのベースは李が入り、西田が入る布陣。コンセプトは変わらず、それまで通りのプレーやシステムで臨もうとしているはずなのに、1つうまくいかなくなると些細なズレが小さなほころびとなり、これまでやってきたはずの当たり前が崩れる。
ミドルブロッカーで唯一、フル出場を果たした山内晶大はこう言う。
「うまくいっている時はいいんです。でも、たとえば西田が決まっている時は西田、西田でいいけれど、そこが止められると、じゃあ次はどうする? となって、それぞれが『自分がやらなきゃ』と普段以上のことを考え始める。
みんなが『やらないといけない』と常にプレッシャーを感じて、ミスをするのが怖くなる。そういう状況だから特に祐希には『自分がやらなきゃ』と一番ストレスを抱えさせてしまったと思うし、僕らもこれまでずっと頼りすぎていたんだと思います」
開幕前から藤井が口にしていた“迷い”
藤井(左)は世界選手権の開幕前、ある「迷い」を口にしていた(写真はワールドリーグの時のもの) 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
イタリア・セリエAでも経験を重ね、中央大を卒業した今春からはプロとしての選手生活をスタートさせた石川と同様に、フランス、ポーランドなど欧州リーグでプレーし、豊富な経験を持つリベロの古賀太一郎が「石川は頭1つ、2つ抜けている。そこをどう生かせるかが、このチームにとって大きなテーマ」と言うように、チームにとって石川の存在が絶対的な武器であるのは間違いない。
だが、その石川とのコンビに不安を抱いていたのが藤井だ。李とのコンビが象徴するように、使いづらい状況からも、積極的にミドルを生かすことを武器とする藤井だが、レフトサイドへのトスがなかなか定まらず、ネーションズリーグ終盤からは正確性と安定性で勝る関田誠大がレギュラーセッターとして試合出場を重ねていた。世界選手権でも前半は関田がスタメン出場したものの、ミドルの攻撃を増やすべく、スロベニア戦からは藤井が先発し、石川と息の合った攻撃を展開した。
しかし、ベルギー戦では前半から当たっていた西田に攻撃が偏り、エースとしては「持ってきてほしい」というところでも、自身にトスが来ない。もちろん望むばかりではなく「ここで上げてほしい」と要求し、互いの意思疎通を図るべきだったのだが、いら立ちを募らせるばかりで、ブロックに連続して捕まった石川は床をたたき、感情をあらわにする場面もあった。
それもスパイカーである自分の責任、という石川は「セッターがトスを上げられない状況を作ってしまった」と振り返る。だが、それは一方の問題だけではない。藤井は石川を勝負どころで生かすべき選手と理解していても、石川が望むベストなトスが自分に上げられているのか。そんな迷いの前兆を、開幕前から口にしていた。
「タイミングがつかみきれていない、というのは正直あります。特にパイプ(攻撃)は前に突っ込んで打ちたい選手が多い中で、祐希は『戻してほしい』と言う。上で打てるから、そのほうがいいんだろうと理解はできるけれど、セッターとしてはパスが返った状態であえて(ネットからトスを離して)戻すと、合わずにフェイントになるんじゃないか、という怖さがある。
でも祐希と合うか合わないか、というのはチームにとってすごく大事なポイントなので、僕ももっとレベルアップしなきゃいけない。神経質になりすぎず、やりがいのあるチャレンジだから、やり続けなければいけないと常々思ってやってきました」