「想定外」の連続に苦しんだ全日本男子 重要な個々の成長、東京五輪へ今が正念場
「石川を生かさなければ」という固定観念
「石川を生かす」という固定観念が強くなればなるほど、藤井本来の強みは影を潜めてしまう 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】
そんな固定観念が強くなればなるほど、自身の長所すら影を潜めるような展開に陥る。一方を生かそうとすれば、もう一方がかすむ。石川を生かそうと起用してきた関田から藤井にセッターを代えたのも、ミドルを生かすというまた別の理由が先行した結果であり、ベルギー戦で敗れた後、中垣内監督はこう言った。
「試合中、スタッフ間で『石川を替えよう』という話は何度も出ました。なかなか満足いく状態でプレーできていないのは確かで、彼を下げて他の選手を出したらまとまるかもしれない。けれど、チーム内で彼のパフォーマンスが一番高いのも間違いない。
ブロックや攻撃で彼に期待するのはもちろんですが、それだけでなく、チームを何とかするようなプレーをできるようになってほしいという思いもある。さらに上に上がるためには石川の成長は欠かせません。そう期待して、引っ張りすぎてしまったのかもしれないし、それはセッターに関しても同様だったと思います」
アルゼンチンとの最終戦では、サイドには柳田、福澤が入り、スタメンから外れた石川は終盤に関田とともに2枚替えで投入された。短い出場機会の中でも、高いパフォーマンスを発揮し、それまでの4戦とは異なる表情を見せたが、試合後は悔しさをにじませた。
「結果が出せなかったことがふがいないですし、3−1か3−0で勝たなければ2次ラウンドにいけない状況の中で、スタメンを外されるというのは自分の力不足でもある。そこで頼られる選手にならないといけないし、周りをコントロールできる力、自分以外の個々の力もコントロールして、モチベーションを上げられるような言葉や言動ができる選手にならなければいけないと、この大会を通して強く思いました」
柳田が「不可欠」と語る、個々のレベルアップ
主将の柳田(8)は「個々のレベルアップが不可欠」と気を引き締める(写真は7月28日の親善試合のもの) 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
特にミドルブロッカーのスキル不足が攻守においてあらわになったのも事実で、個々のレベルが高まらなければ、いくら世界を見据えた戦術を掲げても、遂行するには至らない。トップチームに限らず、日本の男子バレーボールが世界と戦える強いチームになるために何が必要か。個のスキルアップが不可欠、というのは主将の柳田だ。
「誰が入っても強い日本代表になる、というのを課題としてやってきたこの1年なので、李さんがいないからできなかった、ではなく、チームとして結果を残せなかったことに対して責任を持たないといけない。ダメだった、できなかったで終わらせるのではなく、これからはもっと先のことを考えて、個のレベルアップを図るしかないと思います」
現実は厳しく、アスリートにとっては結果がすべて。だが、一方で2次ラウンド進出が断たれた中でも、フルセットの末に勝利したこと。何より、パフォーマンスや、チームの雰囲気がこの5戦の中で最も充実し、「もっと見たい」と思わせたのは、紛れもなく最終戦であり、それはこれから歩むべき道筋につながるヒントも含んでいるはずだ。
悔しさを受け止め、前を向くために。福澤が言った。
「もがき苦しみながら、迷いながら『これで合っているのか』と思いながら、でも最後に全員が前を向いて、2次ラウンド進出が途絶えた中でも諦めずに勝ち取ったのが、この1勝。僕はその一歩を大事にしたいと思いますし、たとえ小さな一歩でも、その部分だけは誇りを持って、次につなげたいです」
屈辱も悔しさも、次に生かせなければ意味がない。2年後の東京五輪で同じ轍を踏まないために。今が、正念場だ。