変わり始めた男子バレー、新戦術に手応え 明確な意図と課題、さらなる進化に期待

田中夕子

イタリアから11年ぶりに勝利を挙げる

全日本はネーションズリーグでイタリアから11年ぶりの勝利を挙げた 【写真:坂本清】

 2007年以来、全日本男子がイタリアに勝利するのは実に11年ぶり。

 今季初の国内開催の公式戦、ネーションズリーグが6月8〜10日に大阪で行われた。ブルガリア戦の惨敗から始まった日本ラウンドの3戦目でイタリアからようやく勝利を収めると、中垣内祐一監督も安堵(あんど)の表情を浮かべた。

「3日間を通して言うと、あまり満足感はないですが最後に1つ、ようやく勝てたのはチームにとっても大きい。単にイタリアに勝ったこともそうですが、すべきバレー、やってきたバレーボールを日本の皆さんにお見せできたということを、素直に喜んでいます」

 まだまだ満足には程遠い。だが、男子バレーは確実に変わり始めている。露出した多くの課題もまた、そんな期待を抱かせた。

ミドルの活用の次は「バックアタック」

 昨シーズン、全日本がまず重きを置いたのがコート中央からの攻撃、特にミドルブロッカーの攻撃回数を増やし、決定率、効果率を高めることだった。セッターの藤井直伸はもともとミドルを使うことを得意としており、パスが乱れた状況でも積極的にミドルを使う。攻撃出現率を増やすことでまずはクイックに目を向けさせ、次はどうするか。新体制での1年目を経て、今季はその次、また新たな挑戦を掲げた。

 カギになるのはバックアタック。ミドルと同じテンポでバックアタックも展開するため、攻撃に入るスピードが要求される。ブロッカーに対して少しでも攻撃側が数的優位の状況をつくるためには速く、なおかつアタッカーの打点の高さを消さないバックアタックが不可欠なのだが、もちろん一朝一夕で完成されるものではない。

 だが、それはたとえ時間をかけてでも取り組むべき要素であり、日本が世界と戦ううえでは絶対に必要なパーツだ、と主将の柳田将洋は言う。

「ミドルがあって、さらにパイプ(前衛ミドルの攻撃と絡めた中央からのバックアタック)もある。そうなれば当然相手ミドルは両方を警戒するので、ほんの0コンマ何秒かもしれないけれど、動きが遅れます。そうなればサイドへのブロックも手薄になる。海外のチームは当たり前にやっていることだし、海外の選手と比べて高さがない日本にとっても、同時に(攻撃)枚数を増やせればもちろん大きな武器になる。この速さでは判断ミスで失点につながってしまうので、難しいのは難しいけれど、これは必要なトライだと思うので、僕自身もモノにしたいし、チャレンジし続けたいです」

西田が見せた「オポジットのメンタリティー」

代表初選出のオポジット西田有志が活躍 【写真:坂本清】

 クイックにプラスしてバックアタックも打数も増やし、「今季の日本はクイックとバックアタックが増えた」と相手に意識させる状況ができたら、次はいかにサイドからの攻撃を生かすか。そこで光ったのが今季、日本代表に初選出されたオポジットの西田有志だ。

 攻撃準備が早く、空中で相手ブロックを見て打ち分ける。高い二段トスや速いトスにも対応できるため、セッターの藤井も「あのテンポで入ってくれるとミドルも生きるのでまた違う展開が生まれる」というように、ミドルの速攻と福澤達哉や柳田の中央からのバックアタック、さらに前衛レフトとライトからの西田の攻撃が同じリズムで展開されるため、相手のブロック枚数が分散されるケースも増えた。

 西田自身は、国内デビュー戦となった日本ラウンドの初戦は硬さも見られた。だが2戦目のポーランド戦は相手ブロックに対しての攻撃方法を試合の中で切り替えるクレバーさを見せ、イタリア戦では福澤が「怖いものなしで伸び伸びプレーして、チームを乗せてくれた」と称したように、サーブ、スパイクで次々得点し、勝利の立役者になった。

「オポジットのメンタリティー」を見せた西田に今後も期待 【写真:坂本清】

 もちろんまだ粗削りな面も当然あるが、負けん気が強く、勝負どころで決して引かない。藤井も「オポジットのメンタリティーを持っているので託せる」と信頼を寄せており、まだまだ伸び盛りの18歳がどこまで進化を遂げるのか。期待は高まるばかりだが、それもプレッシャーではなく、西田にとっては活力になると公言する。

「オポジットはメンタルが弱かったら成り立たないポジション。緊迫した場面で上げてもらって、そこで決め切らないとオポジットの役割は全然果たせないと思う。自分の気持ちがナイーブになってしまったらセッターとしても上げづらいと思います。そうなるとセッターも攻撃のバリエーションが減ってしまうので、どんな状況でも自分がスパイクを決めることでどれだけブロックを引き付けられるか。自分がおとりになるぐらいの攻撃力を持っておかないとチームとしては全然プラスにならないと思うし、自分だけでなく、どこからでも攻撃できて、スパイクが決められる、そういうチームにならないと勝てない。

 身長の高さやパワーで勝てない部分は攻撃を分散させるとか、早く準備をするとか、常に攻撃する、という意識を全員が持ってやっていかなきゃいけないし、僕はデカイことを言う分、その責任も背負ってやっていかなきゃいけないと思っています」

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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