バレンティンの「ここぞの集中力」 初の打点王が濃厚、自ら示すこだわり
ホームランよりも打点
現在セ・リーグ打点王をほぼ手中に収めているバレンティン。ホームランのイメージが強いが、本人は打点へのこだわりを口にする 【写真は共同】
東京ヤクルトのウラディミール・バレンティンに、いわゆる記念球はいくつ持っているのかと尋ねると、そんな答えが返ってきた。バレンティンといえばホームラン。さすがに節目のボールは、ひととおり保管してあるのだという。
だが、8月26日の横浜DeNA戦で、その記念球コレクションにNPB通算250号を加えたのを最後に、バレンティンのバットからホームランが飛び出すことはなくなった。そこまで33本でセ・リーグのホームランダービートップを走っていたのが、その後は19試合ノーアーチ。広島の丸佳浩とDeNAの筒香嘉智に抜かれ、3位タイに後退してしまった。それでも当のバレンティンは、ホームランの数は意識していないという。
「今はホームランは必要ない。それよりもRBIだよ」
RBIとはRuns Batted Inの略、すなわち打点のことだが、「ホームランは必要ない」との言葉どおり、9月13日の巨人戦での勝ち越し打、続く14日の阪神戦での先制打の際に発したコメントには「コンパクトに」、「大振りせず」といった言葉が並んだ。15日の阪神戦でも代打で適時打を放ったが、これら3本のタイムリーはいずれも単打。長打はなくとも、走者をかえして打点を稼いでいる。今季の打点はここまで118で、2位のビシエド(中日)に21打点もの大差をつけてリーグトップを独走している。
自らのバットが勝利に直結
「去年は負け過ぎたから、今年は何としてもプレーオフ(クライマックスシリーズ、以下CS)に行きたい。だから、チームが勝つためなら何でもする。ランナーがいなければホームランを狙うが、状況によっては塁に出ることを優先する。もちろんランナーが得点圏にいれば、返すことを考える。勝つために選手1人ひとりが必要なことをするのが、強いチームなんだ」
そう力説したのは、シーズン開幕前のことだ。今シーズンから4年ぶりに復帰した小川淳司監督も、「バレンティンに期待するのはホームランの数より、ここっていう時のバッティング。そこに向けて集中力を高めてくれれば、おのずと結果は残せるんじゃないかと思っている」と話していたが、その期待に十二分に応えていると言っていい。
もともとバレンティンというバッターは、集中した状態では手が付けられないが、ひとたび集中力が切れると、あっさり三振や凡退をしてしまう傾向にある。ところが、今年は「よく集中している」という声をたびたび耳にするようになった。現役引退から5年ぶりに復帰した宮本慎也ヘッドコーチも「一生懸命やってると思います」と評価する。その集中力の源はどこにあるのか? まずは96敗した昨年とは打って変わり、ここまで2つの貯金をつくって2位とチームが好調なのが大きい。
「今年は去年よりもいい野球ができている。ケガ人がほとんどいないし、打線も投手陣も去年より良い。去年はケガ人ばかりだったし、若く経験のない選手たちで勝つのは難しかった。その違いは大きいね」(バレンティン)
これまでもチームが勝てないと、なかなかモチベーションが上がらないタイプだった。昨年は自分がアーチをかけても空砲になることが多く、そうした状況で集中力を保ち続けるのは難しかった。しかし、今年はホームランを打った試合は22勝9敗1分け、2打点以上挙げた試合は24勝9敗1分けと、自らのバットがチームの勝利に結びついている。そうなれば、いやが上にもモチベーションは高まる。