連載:燕軍戦記2018〜変革〜

バレンティンの「ここぞの集中力」 初の打点王が濃厚、自ら示すこだわり

菊田康彦

ホームランよりも打点

現在セ・リーグ打点王をほぼ手中に収めているバレンティン。ホームランのイメージが強いが、本人は打点へのこだわりを口にする 【写真は共同】

「記念のボール? たくさんあるよ。日本で打った最初のホームランに(NPB通算)100号、150号、200号、250号。それに(2013年のシーズン)55号、56号、60号もある」

 東京ヤクルトのウラディミール・バレンティンに、いわゆる記念球はいくつ持っているのかと尋ねると、そんな答えが返ってきた。バレンティンといえばホームラン。さすがに節目のボールは、ひととおり保管してあるのだという。

 だが、8月26日の横浜DeNA戦で、その記念球コレクションにNPB通算250号を加えたのを最後に、バレンティンのバットからホームランが飛び出すことはなくなった。そこまで33本でセ・リーグのホームランダービートップを走っていたのが、その後は19試合ノーアーチ。広島の丸佳浩とDeNAの筒香嘉智に抜かれ、3位タイに後退してしまった。それでも当のバレンティンは、ホームランの数は意識していないという。

「今はホームランは必要ない。それよりもRBIだよ」

 RBIとはRuns Batted Inの略、すなわち打点のことだが、「ホームランは必要ない」との言葉どおり、9月13日の巨人戦での勝ち越し打、続く14日の阪神戦での先制打の際に発したコメントには「コンパクトに」、「大振りせず」といった言葉が並んだ。15日の阪神戦でも代打で適時打を放ったが、これら3本のタイムリーはいずれも単打。長打はなくとも、走者をかえして打点を稼いでいる。今季の打点はここまで118で、2位のビシエド(中日)に21打点もの大差をつけてリーグトップを独走している。

自らのバットが勝利に直結

 バレンティンがシーズン100打点を超えるのは、日本新記録の60本塁打を放った13年の131打点に次いで2度目。昨年は32本のホームランを打ちながら、打点は80にとどまっていた。今年は本塁打数では昨年を1本上回るだけだが、打点はすでに38も多い。実は今シーズンのバレンティンは、開幕前から打点に対するこだわりを口にしていた。

「去年は負け過ぎたから、今年は何としてもプレーオフ(クライマックスシリーズ、以下CS)に行きたい。だから、チームが勝つためなら何でもする。ランナーがいなければホームランを狙うが、状況によっては塁に出ることを優先する。もちろんランナーが得点圏にいれば、返すことを考える。勝つために選手1人ひとりが必要なことをするのが、強いチームなんだ」

 そう力説したのは、シーズン開幕前のことだ。今シーズンから4年ぶりに復帰した小川淳司監督も、「バレンティンに期待するのはホームランの数より、ここっていう時のバッティング。そこに向けて集中力を高めてくれれば、おのずと結果は残せるんじゃないかと思っている」と話していたが、その期待に十二分に応えていると言っていい。

 もともとバレンティンというバッターは、集中した状態では手が付けられないが、ひとたび集中力が切れると、あっさり三振や凡退をしてしまう傾向にある。ところが、今年は「よく集中している」という声をたびたび耳にするようになった。現役引退から5年ぶりに復帰した宮本慎也ヘッドコーチも「一生懸命やってると思います」と評価する。その集中力の源はどこにあるのか? まずは96敗した昨年とは打って変わり、ここまで2つの貯金をつくって2位とチームが好調なのが大きい。

「今年は去年よりもいい野球ができている。ケガ人がほとんどいないし、打線も投手陣も去年より良い。去年はケガ人ばかりだったし、若く経験のない選手たちで勝つのは難しかった。その違いは大きいね」(バレンティン)

 これまでもチームが勝てないと、なかなかモチベーションが上がらないタイプだった。昨年は自分がアーチをかけても空砲になることが多く、そうした状況で集中力を保ち続けるのは難しかった。しかし、今年はホームランを打った試合は22勝9敗1分け、2打点以上挙げた試合は24勝9敗1分けと、自らのバットがチームの勝利に結びついている。そうなれば、いやが上にもモチベーションは高まる。

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著者プロフィール

静岡県出身。地方公務員、英会話講師などを経てライターに。メジャーリーグに精通し、2004〜08年はスカパー!MLB中継、16〜17年はスポナビライブMLBに出演。30年を超えるスワローズ・ウォッチャーでもある。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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