連載:燕軍戦記2018〜変革〜

バレンティンの「ここぞの集中力」 初の打点王が濃厚、自ら示すこだわり

菊田康彦

首脳陣は手綱をさばくだけでなく…

今季は首脳陣や帰ってきたベテラン・青木の計らいもあり、気分良くプレーができているよう。長期離脱もなく、ほぼ全試合に出場している 【写真は共同】

 今年から新たに加わったコーチ陣も、バレンティンの手綱をうまくさばいている。昨年まで広島のコーチを務めていた石井琢朗打撃コーチが「彼に求められてるものは打点という話は、最初にしました。あとは、相手はなかなか勝負してくれないんで、ボール球を振りに行って自分のバッティングを崩さないように、フォアボールも打点と同じぐらい大事にしようっていう話もしてます」と言えば、同じく広島から来た河田雄佑外野守備走塁コーチも「文化が違うんで、ガミガミ言うより乗せるほうが大事だと思う。しっかりやってくれてるよ」と話す。また、メジャーから復帰した青木宣親も「楽しそうにしていたほうが、アイツは力が出る」と、7年ぶりに一緒にプレーするバレンティンに常に陽気に接している。

 前回の監督時からバレンティンをよく知る小川監督も「そこまでバレンティンの身体に気を使ってるわけじゃない」と言いながらも、リードした展開では早めにベンチに下げ、広島や甲子園からの移動ゲームなどでは試合前の打撃練習を免除するなど、配慮は欠かさない。こうした気遣いも、ここ最近は毎年のように故障に泣かされてきたバレンティンが、今年はほぼ全試合に出場できている一因になっているはずだ。

 ただし、その小川監督も「集中力が切れた時にチームに悪影響を及ぼすようなことがあるから、そういうところはちゃんとしないといけない」と、釘を刺すことは忘れない。実際に9月16日の広島戦では、微妙なコースを球審にストライクと判定されると不満そうな表情を浮かべ、気のないスイングで三振に倒れる場面があった。すると試合後、宮本ヘッドコーチからすかさず雷が落ちた。

「怒りました。まあ、僕はそういう役割ですから」

 宮本ヘッドはそう苦笑したが、前述のとおり「一生懸命やっている」と評価しているからこそ、CS進出に向けてチーム一丸となっている大事な時期に、雰囲気を悪くするような態度は取ってほしくないという思いがあった。

4番としての真価はこれから

 バレンティンは15年には真中満前監督のもと、ナインとともに優勝の美酒に酔ったものの、手放しでは喜べなかった。この年はケガで大半を棒に振り、シーズンで放ったホームランはわずか1本。CS、日本シリーズでも計9試合に出場しながら本塁打ゼロ、打点を挙げたのも1試合だけ(2打点)と、思うような働きはできなかった。だから、いつかはチームの優勝に自ら貢献したい、ポストシーズンで大暴れしたいという気持ちは強い。

 現在は首位を行く広島がマジック4と優勝目前だが、ヤクルトはこのまま2位でシーズンを終えれば本拠地・神宮でCSファーストステージを戦うことができる。さらに、これに勝てば“下克上”をかけてファイナルステージで広島に挑むことになる。

「今は自分のスイングができていない」というバレンティンは、9月に入って打率1割9分3厘、本塁打ゼロと本調子にはほど遠い。それでも、13日から15日にかけて3試合連続で打点を挙げ、小川監督に「ここっていう時の集中力は頼もしい」と言わしめたように、期待されるのは「ここぞという場面」での集中力。シーズン残り14試合、そしてその先にあるCS──。初の打点王はもう手中に収めたも同然だが、4番打者としてのバレンティンの真価が問われるのはここからだ。

(成績は9月19日終了時点)

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著者プロフィール

静岡県出身。地方公務員、英会話講師などを経てライターに。メジャーリーグに精通し、2004〜08年はスカパー!MLB中継、16〜17年はスポナビライブMLBに出演。30年を超えるスワローズ・ウォッチャーでもある。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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