韓国馬を一蹴! 今年も日本馬は強かった 好騎乗の藤井勘一郎、夢のJRA騎手受験へ

山本智行

接戦制したモーニン、石坂調教師も鞍上を賞賛

モーニンを勝利に導いた藤井の好騎乗、石坂調教師も手放しで絶賛した 【写真:有田徹】

 そんなロンドンタウン陣営とは違い、たっぷりと冷や汗、いや脂汗までかいたのはモーニン陣営だった。贔屓にしている香港のD・リョン騎手騎乗ファイトヒーローとの馬連(9)−(13)の860円を1点で“いわしたった”から言うわけではないが、レースとしてもスリリングで迫力満点だった。

 そのコリアSはコリアCの1つ前の第8レースとして行われ、1着賞金3990万円。昨年は武豊騎乗のグレイスフルリープが制したが、第1回の日本馬は敗れており、死角があるとすれば、こちらのレースと思われていた。

 オッズも1番人気ながら2.6倍と韓国の競馬ファンも半信半疑の様子。案の定、海外初挑戦のモーニンは初の1200メートル戦と韓国特有のテンの速さに戸惑い、ついていけない。大外発進の香港馬ファイトヒーローにかぶせられ、にっちもさっちもいかない状態となった。

 だれがどう見ても大ピンチ。半ば、リョン騎手の頭脳プレーに感心しかけていたが、世界を股に掛けて騎乗してきた藤井も負けてはいなかった。懸命に手綱をしごき、パートナーを励ます。直線ようやくエンジンが掛かったモーニンはGI馬の底力を発揮し、香港馬の追撃をクビ差でしのいだ。時計は1分11秒5。藤井は笑顔で胸をなで下ろした。

「道中は考えていた中で一番嫌な展開。直線向いて“これなら”と思ったが、最後まで気は抜けなかった。最後はモーニンが頑張ってくれた」

  主催者発表のモーニンの通過順は11−9−4で、2着馬は12−10−5と終始、張り付かれる形。かつてジェンティルドンナ、ヴァーミリアンなどで国内外のGI級を23勝している石坂調教師も「外から来られるとダメなタイプ。揉まれ込んだときは正直、“アカン”と思ったほど」と観念しかけたが「残り200メートルでなんとかなるかと。藤井君がうまくカバーしてくれました」と鞍上を賞賛した。

世界各国で騎乗する藤井「JRAで乗るのは夢ですから」

オーストラリア、シンガポール、韓国など世界各国で勝利を挙げている藤井が夢のJRA騎手合格へ6度目のチャレンジをする 【写真:有田徹】

 その藤井は奈良県御所市出身の34歳。最初のJRA騎手課程の試験は「体重1キロオーバーで競馬学校に入学ができなかった」。その後は15歳から現在までオーストラリアを中心にシンガポール、韓国、中国の内モンゴル自治区でも騎乗。日本では地方競馬の南関、門別でプレーし現在、通算506勝をマークしている。

 オーストラリアで279勝、韓国でも151勝を挙げトップジョッキーとして知られており、第1回コリアCをクリソライトで制覇。今回のコリアSで韓国GIをダブル制覇の快挙となった。その他にも15年トゥクソムCを日本馬エスメラルディーナで勝ち、地元馬でコリアダービー、グランプリといった主要レースを軒並みものにしている。今回、モーニンの鞍上に指名されたのも経験と実績を買われてのものだ。

「いい馬に乗るためにジョッキーをしている。選んでもらった以上は常に結果を出したい」

 北海道に妻と1男、1女の家族を残す藤井は今後、南関で騎乗し、JRAの騎手試験に6度目のチャレンジをする。

「モレイラも受かってほしい。何しろ年間300勝ペースの男ですからね。もちろん自分も、です。JRAで乗るのは夢ですから」

 どこかメジャーリーガーのイチローを思わせる風貌。今回、苦境を突破したモーニンでの韓国スプリント制覇は感動的でもあったし、彼のキャリアにとっても節目になったはずだ。この先、カンイチローの前途には、どんなドラマが待っているのだろうか。

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著者プロフィール

やまもと・ちこう。1964年岡山生まれ。スポーツ紙記者として競馬、プロ野球阪神・ソフトバンク、ゴルフ、ボクシング、アマ野球などを担当。各界に幅広い人脈を持つ。東京、大阪、福岡でレース部長。趣味は旅打ち、映画鑑賞、観劇。B'zの稲葉とは中高の同級生。

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