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「残留に向けて」試される指揮官
J2・J3漫遊記 FC岐阜<前編>

成績は振るわずとも入場者数は増加

オウンゴールでまたしても敗戦。岐阜の大木武監督は険しい表情でゴール裏に、向かう
オウンゴールでまたしても敗戦。岐阜の大木武監督は険しい表情でゴール裏に、向かう【宇都宮徹壱】

 岐阜メモリアルセンター長良川競技場を訪れるのは、実に6年ぶりのことであった。現地に到着してまず驚いたのが、グリーンのレプリカユニホームを着た観客の多さである。2桁順位(それも下のほう)が定位置で、それほど有名選手もいるわけでないFC岐阜は、J2の中でも地味な存在。J2に参入した2008年以降の6シーズンは、どんなに頑張っても平均入場者数が5000人を超えることがなかった。14年にはラモス瑠偉が監督となり、さらには川口能活や三都主アレサンドロといった元日本代表選手が加入して、平均入場者数が一気に3000人増えたこともあったが、それも一時的な現象でしかなかった。


 それがどうしたことだろう。今季の岐阜は横浜FCとのホーム開幕戦で9331人の観客を集めると、それ以降は7000人や8000人という大入りも珍しくなくなった。この日(9月1日)、大宮アルディージャを迎えた試合の公式入場者数は「5247人」と発表された。現在のチーム状況を考えると、驚くべき数字と言っていい。というのも、岐阜は目下のところクラブワーストタイの7連敗中で18位。しかも、6月2日の水戸ホーリーホック戦(4−0)以来、ずっとホームで勝利していない。にもかかわらず、5000人以上の観客が長良川を訪れていることに、明らかな変化が感じられた。


 昨シーズンからチームを率いる大木武監督は、この日も4−3−3でスタート。自ら仕掛けながらポゼッションを高めていくスタイルは相変わらずだが、3バックから4バックに戻して強固なブロックを形成する大宮の守備を打ち崩すことができない。前半を0−0で折り返すと、大木監督はハーフタイム(ライアン・デ・フリースOUT/風間宏矢IN)と後半31分(小野悠斗OUT/三島頌平IN)にカードを切る。いずれも攻撃のテコ入れが目的で、特に風間の投入は前線の活性化と縦への意識を増幅させた。後半に限って言えば、岐阜のシュート数は大宮の倍の8本。しかし、ゴールは遠い。


 そして0−0のまま迎えた後半37分、大木監督は最後のカードを切る。左ワイドの薮内健人に代わってDFの田森大己。田森はアンカーのポジションに入り、システムも4−1−4−1になった。のちに岐阜サポーターの友人に確認したところ、指揮官が守備固めの選手交代をするのは、岐阜を率いるようになってこれが初めてだという。しかし交代から5分後の後半42分、大宮のFKに阿部正紀がヘディングでクリアしようとしたところ、ボールは放物線を描きながら自分たちのゴールに吸い込まれてゆく。クラブワーストとなる、岐阜の8連敗を決定づけたのは、何とオウンゴールであった。

「今日の大木武は、僕らが知っている大木武ではなかった」

クラブワースト記録となる8連敗。しかし岐阜のサポーターはチームを励まし続けた
クラブワースト記録となる8連敗。しかし岐阜のサポーターはチームを励まし続けた【宇都宮徹壱】

「俺たちが共にいる どんな時もお前と 今ここで見せろ岐阜 誇り胸に戦え」


 それは、予想外の光景であった。試合後、選手やスタッフ、そして大木監督がゴール裏に向かうと、サポーターたちがチームを鼓舞するチャントを歌い続けたのである。ブーイングやヤジは一切聞こえてこない。サポーターたちにとって、もちろん腹立たしい敗戦だったはずだ。それでも、選手全員が深々と一礼してロッカールームに引き上げるまでの間、「俺たちが共にいる」のチャントが途切れることはなかった。依然として状況は厳しい。それでも、長く暗い連敗トンネルが続く中、かすかな光を見るような思いがした。


 試合後、岐阜の古株サポーターたちとビールを飲みながら、今日の試合について語り合う。彼らはいずれもゴール裏の住人ではないが、J2に参入する以前からクラブを見守り続けてきたツワモノばかり。チームの連敗に関しても、実に冷静で見識のある意見が目立つ。いわく「大木さんのサッカーは、それを実現できる選手をそろえないと厳しい。名古屋(グランパス)みたいに、お金があれば話は別だけれど」。いわく「大木監督の1年目の勝数(11)って、ラモス監督の3年目(12)よりも少ないんですよね」。いわく「パスは通るんだけれど勝てない。選手を育てるのはうまいんだけど、結果を出せない」。


 とはいえ、彼らは「大木やめろ!」と声高に叫んでいるわけではない。むしろ、今日の敗戦を非常にポジティブにとらえていた。その根拠となったのが、後半37分の選手交代とシステム変更である。彼らの意見を集約すると、以下のようになる。


「これまでの大木さんだったら、自分が理想とするサッカーを崩すことなく、『勝てばいいんだろう?』って感じだったんですよ。でも、今日の試合で初めて、3枚目のカードで守備的な選手を入れて、ドロー狙いの采配を見せましたよね。今日の大木武は、僕らが知っている大木武ではなかった(笑)。もしかしたらこれまでの方針を封印して、これから『残留に向けた戦い』に一気に舵を切るのかもしれない。そこに期待したいです」


 岐阜のサポーターは「J2残留」に関しては、極めてリアリスティックな感覚を持ち合わせている。J2に降格制度ができた12年以降、ギリギリで降格および入れ替え戦を回避したのは6シーズン中4回。もはや毎年の風物詩と言ってよい。そして「とりあえず勝ち点40」というのが、彼らがイメージするボーダーラインだ。この第31節を終えた時点での勝ち点は32。残り11試合、8ポイントを積み重ねることができれば、残留は十分に可能だろう。問題は、大木監督が「残留に向けた戦い」に方針転換するのか、である。

宇都宮徹壱

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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