デル・ピエロが長良川に来る理由 J2・J3漫遊記 FC岐阜<後編>

宇都宮徹壱

6年ぶりの長良川で感じた変化

6年ぶりに訪れた岐阜メモリアルセンター長良川競技場は、何もかもが様変わりしていた 【宇都宮徹壱】

 再び、岐阜メモリアルセンター長良川競技場にて。最後にここを訪れた6年前と比べると、ホームゲームの風景がすっかり様変わりしていて、戸惑うこともしばしばである。まず目につくのが、観客数の増加。「今年は特にシーチケ(シーズンチケット)のお客さんが多いですね」と語るのは、サポーターによるマッチデープログラム『岐大通(FC岐阜大好き通信)』の発行人である吉田鋳造である。いわく「今は700部ほど刷っていますが、15分くらいではけてしまいますね。同じ顔ぶれが手にとってくれているので、明らかにシーチケホルダーが増えていると感じます」と続ける。

 運営面でも、さまざまな変化があった。まず、スタジアムグルメの屋台が目に見えて増えた。クラブグッズの種類も豊富になった。試合前に流れる選手紹介ビデオのクオリティーが上がった。子どもだけでなく、大人のチアチームもできた。そして何より感慨深いのが、岐阜に「ギッフィー」というマスコットが誕生していたことだ。以前は、2011年に開催された岐阜清流国体の「ミナモ」が岐阜県からの期限付き移籍という形で、活躍していたのだが、ついにクラブ独自のマスコットが登場したのである。ちなみにギッフィーのモチーフになっているのは、岐阜県の花であるレンゲ。「花系」のマスコットは、Jリーグ初である。

 私がFC岐阜を初めて取材したのは、今から12年前の06年。まだ地域リーグに所属していた頃で、元日本代表の森山泰行が現役でプレーしており、戸塚哲也がチームを率いていた。06年にはぶっちぎりの強さで東海1部を制し、地域決勝で2位を確保するとホンダロックSCとの入れ替え戦に勝利してJFLに昇格。翌07年はシーズン途中での監督交代もあったが、JFL3位という成績でJ2に到達した。01年に岐阜県1部からスタートしたクラブは、わずか8年でのJリーグ入り。だが、地方クラブが急激にカテゴリーを上げて必ずぶち当たるのが経営問題であり、岐阜もまた例外ではなかった。

 J2に昇格した1年目で、早くも約3億円の累積赤字と1億4000万円の債務超過。Jリーグの公式試合安定開催基金から5000万円の融資を受け、さらに地元企業やファンからの寄付を募ることでJリーグへの返済は何とかクリアしたものの、不安定な経営状態はJトラストが大口スポンサーとなった13年まで続いた。私が最後に岐阜を訪れた12年は、まだまだ経営的に予断を許さぬ状況であり、スタッフの表情にも余裕がまったく感じられなかった。それが今はどうだろう。広報も運営も現場も、皆が実に生き生きと働いているように感じられる。実はそれこそが、岐阜の一番の変化なのかもしれない。

クラブの力強い味方「ナガラジェンヌ」

開発したグッズを手にする、事業企画チームリーダーの花房信輔(左)と広報の渡邊亮 【宇都宮徹壱】

 ホームで大宮アルディージャに敗れた2日後の月曜日、岐阜県長良川スポーツプラザにある岐阜フットボールクラブの事務所を訪ねた。エントランスでまず目に飛び込んできたのは、FC岐阜の歴代ユニホーム。クラブは昨年、Jクラブになって10年のアニバーサリーを迎えている。経営難の5年間、そして大口スポンサーの登場で何もかもが激変した5年間。これほど目まぐるしく変貌したクラブも珍しい。

 それにしても、ラモス瑠偉の監督就任で、全国メディアの注目を浴びてから早5年。一時は落ち込んだ入場者数が、再び持ち直したのはなぜなのか。そして、今季のシーズンチケットホルダーが増えたとすれば、それはクラブ側の明確な戦略によるものだったのか。私の疑問に答えてくれたのは、事業企画チームリーダーの花房信輔である。

「やっぱり大木(武)監督のサッカーが魅力的だったことですよね。大木さんが来て、『岐阜のサッカーは面白い』と言われるようになりました。それから宮田(博之)が社長に就任して以降、『どうすればお客様に喜んでいただけるか』ということで、ひとつひとつ目標を掲げながら実現していくようになりました。シーズンチケットに関しても、社長から明確な目標指針がありました。16年が866枚、17年が1110枚、今年は2000名を目指して、最終的には1545枚という数字になりました」

 それでも、前年比で70%増というのは立派な数字だ。ここで注目したいのが、クラブが意識的に女性ファンをターゲットにしたマーケティングを志向していたことである。広島カープの「カープ女子」、セレッソ大阪の「セレ女」を意識して、昨年クラブは岐阜の女性サポーターを『ナガラジェンヌ』と命名することを決定。このナガラジェンヌ、実はクラブにとって力強い味方にもなってくれている。再び、花房。

「ナガラジェンヌには、ただ試合を楽しんでいただくだけでなく、女性ファンがどのようなものを求めているかを知るためのアイデア出しもお願いしています。ホームゲームがある日に選手とパンを作ったり、スタグルのメニューにスイーツやフルーツ系を増やしたり。グッズの商品開発でも、ナガラジェンヌのアイデアから生まれたものがいくつかありますね。あと、定期的にガールズフェスを開催していますし、今年から託児所も始めました」

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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