昨年準V…葛藤のシーズンを戦う加藤未唯 それでも前向き強気で「勝つしかない!」

内田暁

ショットには自信も、ゲームで「ひらめいてこない」

昨年のJWO決勝後、笑顔で写真に収まる加藤(左)。葛藤のシーズンを経て、加藤は再びJWOの舞台で戦う 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 加藤の葛藤を一層複雑にした要因の一つに、「ショット自体は昨年よりも良くなっている」という、ある種の自信と充実感がある。それは練習コートで得た、課題克服の実感に根ざした手応え。だがいざ試合になると、どこか受け身になり「ひらめいてこない」自分がいた。

 156センチの小柄な体で世界と戦う加藤の武器は、本人も自信を持つ走力とスタミナを生かした粘り強さ。そして、次から次へと豊富な手札を切るようにショットを繰り出す多様性と、それらを組み合わせゲームを作る創造性にある。その彼女が最近は、相手の裏をかくようなショットを、なかなか試合中に打つことができない。今までは「自然と打てていた」だけに、いざ「どうやってたんだろう」と考え出すと、思考の袋小路に迷いこんだ。

 練習で得られる達成感はある。友人との親交も含め、日々の生活も充実感に満ちている。それでも、いかに練習が実り多くても、どんなに友人たちと楽しい時間を過ごしていようとも、ふと心に差し込むむなしさは、どうにも消しようがなかった。

 何か足りない、何かやりきれていない――その空虚を埋めるものが何かは、誰に言われるまでもなく分かっている。

「試合なんです、私たちには。それを補うには、勝つしかないんです」

 それは「試合で勝つうれしさは、私生活のそれとは全然違う」という、アスリートの性なのだろう。

苦しい中でも前を向いてコートへ

 もがきながらも自身と向き合い、苦しむ姿を人に見せず顔を上げてきた今、彼女は自分の中に「すごく良いイメージはある」と明言する。何かきっかけさえあれば、あらゆるピースがかみ合うはずという予感。だからこそ今年のJWOには、結果よりも「自分の良さを引き出す」ことを求めてコートに立ちたいと言った。

 華やかな舞台で、大声援を背にプレーすることが何より好きな彼女には、日本開催の大会は楽しみでしかない。

「応援されると、うれしくて笑っちゃうんです。シングルスの試合中はさすがに我慢しているので、去年のJWOでは笑いをこらえるのが大変でした!」

 そう言い彼女は、また屈託なく笑った。

 一年前に笑みを隠しながら戦った大会で、今年の彼女は「日本のファンの前で楽しむ」ことを願っている。追い求めてきた「良いイメージ」をラケットで描き、観客の声援を全身に浴びた時、彼女は再びコート上で、心からうれしそうに笑うはずだ。

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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