井手口はリーズで「構想外扱い」なのか ビエルサの言葉から読み解く立ち位置
日本では「戦力外扱い」と報じられた井手口について、チーム内での立ち位置を読み解く 【写真:Shutterstock/アフロ】
「戦力外扱い」と日本で報じられたこの会見まで、井手口の状況は非常に不透明だった。そこで、監督会見までの経緯を時系列に沿って振り返ってみたい。
背番号発表の際に井手口の名前はなく……
日本代表のバックアップメンバーとして合宿に参加後、井手口(右)はチームに合流したが…… 【Getty Images】
ビエルサ監督は1955年生まれの63歳。アルゼンチン代表やチリ代表、アスレティック・ビルバオなどの監督を歴任。戦術マニアとして知られ、趣味はサッカーのビデオ収集と言われている。
そんな新監督にアピールするため渡英した井手口だったが、すぐに壁にぶつかった。リーズはシーズン開幕までのプレシーズン期間で強化試合を6試合消化した。その中で、井手口に出番があったのは2試合。7月19日に行われたヨーク・シティ戦では4−1−4−1のインサイドMFとして先発。そして、同24日のオックスフォード・ユナイテッド戦は、4−1−4−1の右MFとして先発した。ヨーク・シティ戦ではフル出場を果たしたが、オックスフォード・ユナイテッド戦では不慣れな右MFで出場したせいか、前半だけで交代を命じられた。
しかも、ビエルサ監督はプレシーズンの強化試合を「主力組の試合」と「控え組の試合」の2つに分けて戦っており、井手口の出場した試合はいずれも「控え組の試合」だった。
雲行きがさらに怪しくなったのが、ビエルサ就任発表から約1カ月後になされた今シーズンの背番号発表。井手口の名前はそこになく、事実上、背番号が与えられなかった。唯一、クラブショップでは16番が井手口にあてがわれているが、クラブ発行のマッチプログラムには、1軍選手リストに日本代表MFの名はない。
ビエルサ「全てを懸けて井手口の成長を助けたい」
ビエルサ監督が会見で発した言葉からは、井手口への評価が見て取れた 【写真:Shutterstock/アフロ】
そして、井手口の状況について日本人記者から質問が飛ぶと、ビエルサ監督はずっと下を向いていた顔をいったん上げ、記者の目を見てから説明した。
「井手口はプレシーズンの6週間、本当に良くやった。ハードワークに徹していた。非常にポジティブな発見もあった。しかし通常、私は1つのポジションにつき、2人の選手を戦力として考える。井手口がクラブに残るかどうか、それは私には分からない。彼は非常に、非常に、非常に、価値のある選手だ。日本人選手の価値は分かるし、日本に対する敬意もある」
「では、井手口に残ってほしいのか?」。そう質問が続けて飛ぶと、以下のように言葉を続けた。
「誠実に話をしよう。井手口は1ポジションの2番手までに入っていない。だから、私が『彼にここに残ってほしい』と言うのはフェアではない。しかし彼がここに残ると言うのなら、これまでもそうしてきたように、私の全てを懸けて彼の成長を助けたい。ただ現在のところ、彼には言葉の壁がある。英語もスペイン語も分からない。そこで彼が出場した試合の分析を行う際、日本人の友人とスカイプを通じて、井手口の母国語である日本語で情報を受け取れるようにしている。彼はそこまでする価値のある選手だ」
これが、日本で「構想外扱い」と報じられた会見時の全コメント、そしてビエルサ監督の様子である。会見に出席した筆者には、正直に現状を説明しながらも、ビエルサ監督は井手口を評価しているように感じられた。
一番の問題は「英語力」と「コミュニケーション」
海外クラブで順応するためにはコミュニケーションが不可欠。吉田麻也(写真左)らも、積極的に会話している 【Getty Images】
だが取材を進めていくと、完全な戦力外扱いではない事実も見えてきた。
実は就任発表から2週間後、ビエルサ監督は昨シーズンのスカッドから9名の放出を決めている。その理由について、リーズの選手数が多すぎるため、人員整理を行いたいと説明していた。そのために、就任前に昨シーズンのリーズの試合をすべて映像で確認したことも明らかにしている。この放出リストの中に井手口の名前はなかった。つまり、放出メンバーの第一候補には入っていなかったのだ。
ビエルサとしては、まず井手口を手元に置いて、じっくりプレーを確認したかったのだろう。そして、会見での言葉通り、井手口のプレーを評価している。しかし、1ポジションにつき2名、つまりベースとなる22名のスカッドメンバーには入れなかった。
加えて、障壁となったのは言葉だった。井手口が英語もスペイン語も分からないため、ビエルサは直接指導することができない。イングランドのほぼ全てのクラブがそうであるように、ビエルサも選手に通訳をつけることを認めていないという。ただし、アルゼンチン人指揮官は日本人の友人に頼み、スカイプを通じて井手口のプレーを指導している。関係者によると、日本語で書かれた戦術書を井手口のために手配したという。
そう聞いて筆者がまず感じたのは、「果たして構想外扱いの選手にここまで手をかけるだろうか?」ということだった。淡々と英国人記者の質問に答えていたビエルサが、井手口に関する質問に誠実に答えたことも、その思いに拍車をかけた。だから、「彼がここに残ると言うのなら、私の全てを懸けて彼の成長を助けたい」という指揮官の言葉も、うそ偽りのないメッセージのように聞こえた。
また、リーズの会長を務めるイタリア人のアンドレア・ラドリッツァーニ氏も井手口を高く評価している。イングランドのプレーに適応することを第一にトレーニングを重ねるようにと、発破をかけているという。
そうして考えると、井手口が抱えている一番の問題は「英語力」と「コミュニケーション」であるように思われる。戦術練習や試合前のミーティングを理解できなければ、当然自分をアピールすることは難しい。特に、細かいディティールに徹底してこだわる戦術家ビエルサのもとでなら、なおさらだ。
さらに、海外クラブへの順応もポイントになる。チームメートであろうと、欧州では言いたいことや、主張したいことをハッキリと伝えなければならない。事実、本田圭佑や吉田麻也はオランダに渡った直後の言葉がままならない状況でも、ミーティングなどで積極的にコミュニケーションを取っていたという。