トーレス加入で見えた鳥栖の問題点 J屈指の2トップを生かすための策は?
「最強で最高の補強」をした鳥栖だが……
大きな期待を背負って鳥栖に加入したトーレスだが、いまだゴールは生まれていない 【(C)J.LEAGUE】
鳥栖への加入を発表するまでには、アトレティコ・マドリーを皮切りに、リバプール、チェルシー、ACミランというトップクラブの最前線で常にゴールを狙ってきた。そして今シーズンは、鳥栖でゴールを狙うことになる。アトレティコで01年にトップデビューを果たしてから、それぞれのクラブで積み上げたゴールは200を超える。列強が集まるリーグ戦やカップ戦の中での記録なので、その実力に関しては誰もが認めるところ。鳥栖にとっては、最強で最高の補強をしたことになる。
トーレスが加入してから、鳥栖は5試合(第21節終了時点)を消化した。輝ける実績を持つトーレスだが、残念ながらゴールは生まれていない。彼自身はそこまでゴールに固執していないのかもしれないが、その実績を知る者からしてみれば、やはりゴールを見たいと思うのも無理はない。事実、第20節のセレッソ大阪戦ではオフサイドとなってしまったが、放ったシュートがゴールに入った瞬間に大きな歓声が沸いたし、オフサイドの判定には大きなため息がスタジアム全体を包んだ。それだけ、彼のゴールを待ち望んでいる者は多い。
トーレスほどの実力者であれば、そのうちゴールは生まれるであろうし、注目が集まればその分だけ他の選手のマークも薄くなる。鳥栖にとっては、トーレスの加入だけでも優位な状況を作ってはいるが、そのためだけに補強したわけではないはず。やはり、フィニッシャーとしてのトーレスの実力を見込んでのオファーであることは間違いないだろう。ならば、いかにすれば待望のゴールが生まれるのであろうか。
課題は周囲との連係、ボールの持ち方
トーレスは豊田(写真右)とは異なるタイプのFWであり、違う形でのゴールが求められる 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】
鳥栖に加入し7年連続で2桁得点を挙げた豊田陽平は、高さと強さを持つFWである。他の日本人の追随を許さないヘディングの強さは、豊田の代名詞ともいえるゴールの形である。この7年間の間には、DFやMFに優秀なクロッサーがいた。ハーフラインを越えてのアーリークロスや、相手陣内深くからのクロスに対して、豊田は相手DFに負けることなくボールをゴールにたたき込んできた。だからこそ、J1昇格を果たすことができたし、その後J2に降格することもなかった。
ここにトーレスが加入したので、違う形でのゴールが生まれる可能性が出てきた。トーレスは、豊田とは違うタイプのFWであり、それまでのようにサイドからクロスを入れておけばいいというわけではない。トーレスは相手DFとの駆け引きの中で、自分のプレーエリアを確保し、フィニッシュを迎えるタイプのゴールゲッターである。
ポイントは、この「駆け引きの中から自分のプレーエリアを確保する」ことにあり、これだけの実績を持つ選手であれば、対峙(たいじ)するDFも、このプレースタイルはお見通しのはずだ。トーレスのゴールが生まれるためには、いかにして周りの選手と連係して、彼がゴールに向かってボールを持つことができるかの1点に懸かっている。
文字にすると簡単なように感じるかもしれないが、相手があってのことなので、なかなかうまくはいかない。それが、加入後5試合でノーゴールという結果が示すところなのだろう。これはサッカーの難しさでもある。