オリヴェイラ色が強い浦和の新スタイル ミシャ時代とは異なる堅守の「3-4-2-1」

島崎英純

調子は上向きも、ゴールは「CKから」ばかり

リーグ再開直後、ゴールは柏木陽介の正確なCKから生まれていた 【(C)J.LEAGUE】

 フィジカル向上の成果が表れたのはJリーグが再開された7月中旬からだ。再開後、初戦の第16節・名古屋グランパス戦を3−1で制し、続く第17節・セレッソ大阪戦は1−1で引き分けた。それまでのオリヴェイラ監督体制のチームはリーグ戦で1勝2分け3敗と黒星が先行していたが、ここで転換の兆しが見えた。

 ただ、この時期の浦和は新たな問題に直面していた。それは、あらゆる得点がセットプレー、すべてCKからのゴールだったのである。名古屋戦の前に戦った天皇杯3回戦・松本山雅戦はCKからマウリシオが2ゴールを挙げて勝利(2−1)。そして先述の名古屋戦はまたしてもCKから、遠藤航の2ゴールと槙野智章のゴールで3点を決めている。またC大阪戦でもCKから興梠慎三がゴールしていて、3試合計6得点はすべてCKから。得点者は興梠以外はいずれもDFで、柏木陽介が5アシスト、武藤雄樹が1アシスト。セットプレーからのゴールは日々の訓練の賜物(たまもの)ではある。オリヴェイラ監督はCK、FKのパターン練習はもちろん、味方ゴールキックや相手ゴールキックの際も各選手のポジションニングを徹底させ、スローイン時のパターン練習をもトレーニングメニューに加えている。酷暑を迎えた今はセットプレーでの得点は効率的で、その点は成果として認識すべきだが、松本山雅、名古屋、C大阪との3試合全てで失点した結果も踏まえて、チームはまだ確かな手応えを得られていなかった。

首位・広島から4得点を挙げ自信をつかむ

夏に加入したファブリシオのゴールなどで広島に勝利。流れの中の得点はトレーニングの成果だ 【(C)J.LEAGUE】

 その流れが払しょくされたのが第18節、リーグ首位に立つ広島とのアウェー戦だった。前半25分に武藤のスルーパスから興梠がゴールゲットし、その後同点に追いつかれても動揺せずに安定した守備組織を形成しながら興梠のPK、そして宇賀神友弥と今夏に新加入したファブリシオの得点で4−1と大勝を果たした。PK以外は流れの中からのゴールだったことで、FWの興梠はこんな主観を述べている。

「最近はセットプレーからしか点が取れていなくて、そういう意味では流れの中で点が取れたことはとても良かった。FWの2人が点を取れたのはチームにとっても勢いづくと思う。しかも4点取れたのは次につながる。FWとしては、やっぱりセットプレーからしか点が取れていなかったので、もどかしさみたいなものがあった」

 そして興梠は、厳しい夏場のゲームで勝ち点を積み上げている現状について、こう語った。

「キャンプでコンビネーションやハードワークの部分はトレーニングしてきた。そのきついトレーニングがこういうところで生かされると思う。オリヴェイラがやってきたことは絶対に間違いないと思うので、今日はその成果が出たのだと思う」

 フィジカルをベースアップさせることで精神面の安定をも図る。試合中に体力を維持できれば、極限状態の中でも思考を巡らせ、戦況を見極められる。そして最も力を注ぐべき状況でプレー精度を落とさずにプレーできれば、それがピッチに立つ選手たちの自信となる。

相手に引かれた際の武器はまだ有していない

今後は「リアクション」ではなく、主体的にゲームを掌握することができるかが鍵となる 【(C)J.LEAGUE】

 オリヴェイラ監督は日々の練習からチーム力を高めるだけでなく、実戦の舞台でも知略を駆使した采配で選手の潜在能力を引き出している。現在の浦和の主戦陣容はGK西川、DFマウリシオ、岩波拓也、槙野、MF青木拓矢、柏木、宇賀神、橋岡大樹、武藤、ファブリシオ、FW興梠でほぼ不動だ。

 C大阪戦を最後に遠藤がベルギーリーグのシント=トロイデンVVへ完全移籍したが、その穴埋めとして右ストッパーに岩波を抜てきし、彼もその期待に応えている。また試合の中盤に差し掛かると戦況を見極めた上で阿部勇樹を投入してミドルエリアの強度を高めるとともに、李忠成を投入してカウンターアクションのスピード&パワーをも維持する。その采配は理に適っていて、第19節の3位・川崎フロンターレとのゲームでは李が相手守備陣を跳ね飛ばしながらペナルティーエリア内へ侵入したところで倒されてPKを獲得。それがダメ押し点となって浦和が2−0で勝利した。

 今の浦和が盤石かというと、まだ疑問符が付く。第20節のV・ファーレン長崎戦ではボールポゼッションにこだわらない相手に決定機を生み出せずにドローに終わった。振り返ってみれば、最近の浦和は相手にボールを持たせる中で虎視眈々と勝機を見いだし、限られた好機、もしくはセットプレーで相手ゴールを破って勝ち星を積み上げてきた。つまり、「リアクション」が現チームの色であり、相手に引かれた際の武器はまだ有していない。

 この後、浦和はリーグ戦でサガン鳥栖、磐田、清水エスパルス、名古屋との対戦が続き、天皇杯4回戦ではJ2の東京ヴェルディとの試合が決まっている。

 シーズンを折り返した今の浦和に求められるものは、主体的にゲームを掌握する機微。そのためには今シーズンに限らず、新たな選手の登用も必須だ。そのハードルをクリアできれば、浦和は着実に安定した成績を上げられるようになるだろう。

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著者プロフィール

1970年生まれ。東京都出身。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当記者を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動。現在は浦和レッズ、日本代表を中心に取材活動を行っている。近著に『浦和再生』(講談社刊)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信。ほぼ毎日、浦和レッズ関連の情報やチーム分析、動画、選手コラムなどの原稿を更新中。

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