鹿島・昌子源インタビュー<後編> 「あれがもう二度と起こらないように」

原田大輔

ベルギー戦で試合終了間際に鮮やかなカウンターを決められた後、昌子はピッチをたたいて悔しがった 【写真:ロイター/アフロ】

 ピッチに拳をたたきつけ、まるで己を呪うかのように悔しがる昌子源の姿が焼き付いている。日本初のベスト8進出を懸けて挑んだワールドカップ(W杯)ロシア大会のベルギー戦。2点を先行しながらも追いつかれた日本は、試合終了間際に鮮やかなカウンターを見舞われ、2−3で敗れ去った。

 その攻撃を必死で追いかけた昌子は、届かなかった「あと50センチ」を悔やみ、怒りの矛先を自分自身に向けた。あと一歩だったが、それでいて大きくもあった世界との差を、彼はどのように感じたのだろうか。そして鹿島アントラーズでさらなる成長を期す彼は今、何を思うのか。(取材日:2018年7月23日)

「少なからず次のことを考えてしまった」

W杯ではこれまでに感じたことのない悔しさが残ったと語る昌子 【スポーツナビ】

――ラウンド16のベルギー戦は、後半立て続けにゴールを決めて、日本が2点を先行する展開になりました。

 2−0になった時点で、僕らが3点目を奪うことは難しいかもしれないと、気持ちを引き締めました。ここからは僕ら守備を担う選手たちの仕事やなと。だから、正直、2点目はあまり喜べなかったんです。むしろ、ここからは本気のベルギーを相手にすることになるんだろうなと……。

 2点目を奪った瞬間、僕は少なからず、次のことを考えてしまったんですよね。試合後に他の選手とも話しましたが、やっぱり次のことを考えてしまった人は多かった。それはきっと、日本国民のみなさんも同じだったのではないかと思います。でも、それがちょっとした隙を生んだと思います。ピッチの中では「2−0のスコアが一番怖いぞ」「1点取られたら相手が勢いに乗るぞ」という話もしていた。だから「さらに集中しよう」ということも言っていた。それなのに、1失点目を後半24分に奪われてしまった。それがきっと隙だったのではないかと思うんです。失点する時間帯が早すぎて、ちょっと嫌だなって思ったことを覚えてますね。

――カウンターを筆頭に、ベルギーはいくつもの戦い方を持っていました。

 W杯の試合はいろいろと見ましたが、ドイツやスペインをはじめ、いわゆる強豪と呼ばれるチームが苦戦した中で、ベルギーは彼らよりも格下と見られるチュニジアに対してボール支配率でほぼ互角だったりするんですよね。だけど、結果は5−2で圧勝。明らかに技術で劣る相手に対しても、ボールを持たせてカウンターで仕留める術(すべ)を持っていました。実際、僕らもボールを持てる時間は多かったですからね。他の強豪チームとはちょっと違いました。でも、どこかボールを“持たされている”感覚もあって、それでいて前線には(ロメル・)ルカク選手、(エデン・)アザール選手、(ドリース・)メルテンス選手の3人が残っている。後ろの選手としては警戒していたし、怖かったですね。

――後半24分の1失点目も、後半29分の2失点目もセットプレーの流れからでした。

 1失点目に関しては、相手(ヤン・ベルトンゲン)が狙ったかどうかは分からないですが、それまであった決定的なシュートが入らないのに、そうした失点で流れを相手に渡してしまった。防げそうで防げない失点でしたけれど……。

ピッチに立った者にしか分からない感覚

世界的ストライカーであるベルギーのルカクと渡り合う昌子 【Getty Images】

――マルアヌ・フェライニ選手が投入されて、ベルギーが高さを生かそうとしているのが分かっていた中での2失点でした。

 2失点目以降の戦い方については、これは何人かの選手とも試合後に話しましたけれど、延長になったら僕らは負けるだろうなという感覚がありました。選手層の厚さもそうですし、延長になればもう1人交代できるというルールも分かっていて、PK戦まで持ち込むのはちょっと厳しいなという思いがありました。

 そうなると、僕らは90分で決着をつけなければならない。みんながそう思っていたから、(本田)圭佑くんも直接FKを狙ったし、(3失点目のきっかけとなった)CKもクロスを上げた。もちろん、後ろには3人が残って3対2の状況にしてリスク管理もしていたから、僕も(吉田)麻也くんも(相手ゴール前に)上がった。勝ちにいこうとした中で食らったカウンターだったし、だから僕はCKで上がったことに関しては後悔していません。

――延長に持ち込めば、という意見もありましたが、ああしてカウンターから3失点目を喫したのも結果論ですからね。

 そうなんですよ。すべて、たらればになってしまいますが、延長戦に突入していたら2−5で負けていたかもしれない。対戦している僕らには、それくらい相手が余力を残しているように見えた。僕らは死闘だと思っていたけれど、ベルギーからしてみたら違ったかもしれない。だから、ベルギーは準々決勝でブラジルを圧倒できたのかもしれないし。ブラジル戦を見て、僕らとやったときのベルギーは本気じゃなかったのではないかとすら思いました。この思いや感覚、景色は、あのピッチに立っていた自分たちにしか分からないかもしれない……。

――3失点目。カウンターを受けた場面を振り返ってもらえますか?

 あの場面、確か93分くらいですよね。その時間帯で、(トーマス・)ムニエ選手、(ケビン・)デ・ブライネ選手、アザール選手は、90分をフルに出ていた選手のスピードではなかった。その時点で、彼らにはまだ余力が残っていたということが1つ。もう1つは途中出場した(ナセル・)シャドリ選手のスピードもまた規格外だったということ。さらに圧巻だったのは、ルカク選手がゴール前で見せたスルー。普通に考えれば、エースストライカーが格下の日本を相手に無得点というのは不覚やったと思うんです。だから、普通のエースストライカーならば、あの場面では強引にでもシュートにいきたかったはず。それなのに、ルカク選手はチームの勝利を優先した。あれは他の国のエースにもできないプレーじゃないかと思います。

――懸命にデ・ブライネ選手、そしてシャドリ選手の後を追う昌子選手の姿が目に焼き付いています。

 僕もいまだに焼き付いていますよ。だから、あれがもう二度と起こらないように、Jリーグでも代表でも、その一歩、あの一歩が届くようにプレーしていければと思っています。それは単純に足が速くなればいいという話ではなく、僕があのカウンターに1秒でも早く気が付いていたら、たぶん間に合っていたと思いますし、世界との差はそういうところなのかなとも思います。

 それと、たぶんベルギーも次を見据えて90分で決着をつけようと思っていたんでしょうね。延長でもいいと思っていたら、(ティボー・)クルトワ選手はCKをキャッチした後、しばらく時間を稼いだと思うんです。それを猛然とペナルティーエリアぎりぎりまでダッシュして、周囲をキョロキョロと見渡した。それにデ・ブライネ選手がすぐに反応した。おそらくあのとき走っていた選手たちには、同じ絵が描けていたと思います。しかも、そのスイッチを入れたのがGK。やられた自分が言うのもあれですけど、ホント、完璧でしたよね。

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著者プロフィール

1977年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』の編集長を務めた後、2008年に独立。編集プロダクション「SCエディトリアル」を立ち上げ、書籍・雑誌の編集・執筆を行っている。ぴあ刊行の『FOOTBALL PEOPLE』シリーズやTAC出版刊行の『ワールドカップ観戦ガイド完全版』などを監修。Jリーグの取材も精力的に行っており、各クラブのオフィシャルメディアをはじめ、さまざまな媒体に記事を寄稿している。

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