プロスケーターからフィギュアの継承者へ 町田樹「今回もさようならは言いません」

沢田聡子

フィギュアスケートを「継ぐ者」として歩む道

プリンスアイスワールド東京公演で演技を披露する町田さん。今後は「継ぐ者」としてフィギュアスケートに関わっていく 【写真:坂本清】

 現役引退後にプロとなってから、自ら振り付けて滑った最初の作品は『継ぐ者』。この作品のコンセプトについて、町田さんは公式ホームページで「人間は誰もが何らかの『継承者』と言え、その人生を全うする過程で、『受け継ぐ者』と『受け渡す者』の両者を経験することになるはずです」と記した。そしてそのテーマは、町田さんのすべての活動における指針となっているように思われる。

 現役引退後、早稲田大大学院スポーツ科学研究科に進んだ町田さんは、音楽を伴う採点スポーツである新体操、アーティスティックスイミング、そしてフィギュアスケートなどをアーティスティック・スポーツと名付けた。芸術とスポーツ、両面の要素を持つ競技に対し、町田さんは著作権の研究などを行い、学術的な視点で真正面から挑んでいる。将来的には大学教授を目指すという町田さんは、今春から大学の非常勤講師として教え始めたと言い「この辺で大学院生、あるいは非常勤講師としてのキャリア一本に絞って頑張っていくべきではないかと考え、引退を決意しました」とも語った。

 そして町田さんは、プロとしての練習を若い選手たちと同じリンクで行っており「彼らとの練習時間がなければ私はこの場に立っていない」と言う。

「本当に若手から刺激をもらいました。一方で私もそうした若いスケーターにとって、僭越(せんえつ)ですけれども模範となれるように、いつも気を引き締めて練習していました。そういうかけがえのない濃密な練習時間が、今のプロスケーターとしての私を創り上げています」

忘れ難いアリーナで最後の公演

14年の世界選手権で銀メダルを獲得したさいたまスーパーアリーナで、スケーターとしてのキャリアに幕を下ろす 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 町田さんは会見で、現役引退時同様「今回も決してさようならは言いません」と述べた。
「パフォーマーとしては10月をもって完全に引退しますけれども、大学院生として、あるいは将来的には研究者として、フィギュアスケート界に貢献できることが必ずやあると信じていますし、そういう人材になれるように頑張っていきます。これからも、パフォーマーとは別のかたちだとは思いますが、フィギュアスケート界とはつながっていきたい、力になっていきたいと思ってます」

「ファンの皆様、報道陣の皆様、それからフィギュアスケート界の皆様に、今後ともお付き合いをよろしくお願いしたいと思いますし、その時が来るのを待っていただけたら、私もそこに向かって一生懸命頑張ることができます」

 フィギュアスケートの歴史の中で、町田さんは先人の歩みを受け継ぎ、経験を後輩に受け渡す「継ぐ者」となろうとしている。 

 町田さんは、10月にさいたまスーパーアリーナで行われるジャパンオープン、カーニバル・オン・アイスでそれぞれ新作を披露し、引退する。さいたまスーパーアリーナは、ソチ五輪代表選考会だった13年全日本選手権、また頂点に限りなく近づいた14年世界選手権で、町田さんが魂のこもった滑りを見せた会場だ。忘れ難い記憶を残したアリーナで、町田樹さんはスケーターとしてのキャリアに幕を下ろす。

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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