町田樹「この現実を受け入れていく」 悔しさ残る5位、初の五輪を語る

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初の五輪は悔いの残る結果となったが、同時に得るものも多かった。町田“語録”で大会を振り返ってくれた 【スポーツナビ】

 町田樹(関西大)はある1つの失敗を悔やんでいた。ショートプログラム(SP)の演技後半に予定していたトリプルルッツがダブルになるという痛恨のミス。「最初で最後の五輪」という決意で臨んだソチの舞台は、5位という成績で幕を閉じた。

 結果的には、あのルッツをしっかり跳べていれば、銅メダルは町田が手にしていた。「仮定の話をするべきではないと十分に分かっているんですけど、いまだに練習でルッツをやると、やるせない思いというか胸が締め付けられる思いになります」と語る。メダル獲得を悲願としていただけに、競技終了から1週間が経っても、いまだ現実をすべて受け入れることはできていないようだった。
 
 なぜ、あの失敗は起きたのか。そして“語録”として今季注目されてきた発言の真意、1カ月後に控える世界選手権について、町田に語ってもらった。

■「あのルッツがなければ……」

――最初で最後の五輪が5位。結果に関しては今も悔いが残っていますか?

 仮定の話をするのは良くないし、するべきではないと十分に分かっているんですけど、いまだに練習でルッツをやると、やるせない思いというか胸が締め付けられる思いになりますね。

――SPのトリプルルッツがダブルになってしまいました。

 そう、あのルッツがなければ……ということを考えてしまうので、ルッツを跳ぶたびに複雑な気持ちになります。まだこの現実を受け入れられない自分がいるというか、時間を掛けていろいろな考えに思いを巡らせて、この現実を少しずつ受け入れていくしかないのかなと思います。

――原因はどういう部分にあったのでしょうか?

 あのルッツの失敗に関しては、直前に自分がルッツを失敗している映像が脳内にフラッシュバックしたんですよ。それは別に珍しいことではないんです。そういうのを強い気持ちや勢いでねじ伏せるんですけど、今回はそれができなかった。そのイメージのまま動いてしまったので、もう少しあそこで強い意志を持って、ルッツに立ち向かうべきでした。普段、僕がやるような失敗ではないので、悔しいですね。もう二度とあんな失敗はしないです。

――ほかのジャンプでもそういうフラッシュバックがあるのですか?

 あります。ただ、それを勢いで払しょくし、ジャンプに入るので成功はするんです。あのルッツももう少し勢いがあれば良かったと今になって思います。1カ月後に世界選手権があるので、そこで絶対にメダルを取りにいきます。次に気持ちを切り替えて、そうしていくことで、この現実を徐々に受け入れていこうと思います。

――五輪で得た一番の収穫と課題は何でしょうか?

 この五輪に出場してみて気付いたことは、町田樹というスケーターは五輪や世界選手権でメダルを取るにふさわしいスケーターであると、国際ジャッジや世間の皆さまが評価してくださったことです。それに対して素直にうれしく思うし、自信にもなりました。自分を誇りに思います。
 その一方で、ソチに入ってからさまざまなことがありました。五輪独特の進行の仕方であったり、試合運びというものが初めてだったので分からず、いろいろな人のアドバイスがあったからこそ前に進めたし、ここに入って3日目には自分の不注意でひざのけがをしてしまい、一時は演技できるだろうかという危機的な場面もあったりしました。そんな中で多くの方が支えてくれて、最後まで自分の演技をすることができた。そういうことから自分1人の力では何もできない未熟者というか、まだまだ経験を積むことが必要で、学ぶことが必要な、文字通りいち学生なんだなということを痛感させられた場でもありました。

■「そろそろ演技のみで語る男も悪くない」

――話は変わりますが、五輪代表に決まってから町田選手の発言は非常に注目されています。そこは意識していますか?

 そうですね。五輪はただスポーツがうまければ出場できる大会ではないので、そういう意味で今季が始まってからセルフプロデュースにも気を遣って、いろいろ考えながら世論を味方につけられるようにやってきたつもりです。でも、最近は言葉が先行しつつある。僕が自分に自信を持っているのは発言ではなく、本来は演技ですから。今後はもっと演技で人に思いを伝えられるようなスケーターにならなければいけないと思っています。語録として取り上げてくださったのはありがたいことなんですけど、そろそろ演技のみで語る男も悪くないかなと思います(笑)。

――なるほど(笑)。こうした独特な表現や言葉のセンスはどこから来るのですか?

 どうなんですかね。時には言葉を意図的に選んでしゃべっていますけど、大半は奇をてらって話しているわけではないんです。そういう中でも取り上げてくださる言葉があって、僕は普通にしゃべっているつもりなんですけど、ちょっと驚いたりします。でも読書だったり、ラジオが好きでよく聴いているのもあって、僕がリスペクトするアーティストや作家さんの影響がやはり大きいんだと思います。

――「ソチに行くのは自分」と今季は開幕前から言っていました。有言実行したわけですが、以前はそういうことをあまり言わなかったとか。どういう意図があったのですか?

 自分に対してと、周囲に対してのある種のプロパガンダ(宣伝、広報活動)みたいなものかなと。自分に対しては「五輪に行くんだ」ということを自分自身に言い聞かせて、自分をそうするための行動に導くというか、五輪に出場するための努力をするようにマインドコントロールをする。周りには「僕が出場権を取る」という自信を見せておく。そういう意図がありました。

――町田選手にとって、言葉の力がもたらすものは多かったということですね

 そうですね。僕は日本人なので、日本独特で昔から人々が大事にしてきた言霊(ことだま)というものを信じています。今シーズンは言葉に救われた場面が多々ありました。

――具体的にはどういう場面で?

 こんな大口をたたいていいんだろうかという場面は多々あったし、全日本選手権の前なんて特にフリースケーティング(FS)のプログラムを滑り切れるような状態ではなかったので、そんなときに「絶対的に自信があります」と意図的に言いました。やっぱり力にはなりますよね。プレッシャーには全然ならなかったです。自分を鼓舞することにつながったと今振り返るとそう思います。

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