連載:燕軍戦記2018〜変革〜

ヤクルトに浸透する「あきらめない姿勢」前半戦最下位も昨年とは異なる戦い方

菊田康彦

宮本HC「必死に戦う姿が出ている」

6月28日、サヨナラ弾を放ったヤクルト・山田哲人と出迎える小川監督(背番号80) 【写真は共同】

 34勝42敗1分け、勝率4割4分7厘──。

 球団初の交流戦制覇を成し遂げ、最大で11あった借金を一時は完済しながら、直後の6月30日から8連敗のまま前半戦を終了した東京ヤクルト。4年ぶりに復帰した小川淳司監督の下、「変革」の年になるはずの今シーズンだが、昨年と同じくセ・リーグ最下位で折り返すこととなった。

「正直、勝敗に関しては『その日暮らし』ですね。まだ、計算できるチームじゃないので」

 前半戦の戦いをそう振り返るのは、現役引退から5年の時を経て、今季から再びヤクルトのユニホームに袖を通した宮本慎也ヘッドコーチ。春のキャンプ前には「ヤクルトの選手は一人残らずプロ意識が高いと思われるように育てたい」と話していたが──。

「選手の意識ですか? まだまだです。数カ月では何も変わらないですよ」

 そう言って笑うものの、開幕から粘り強い戦いを続けている選手たちの姿勢には、一定の評価を与える。

「ベテランが多いですけど、あきらめずにというか、必死に戦ってる姿っていうのは出てるかなと思います。そういうところでは、意識が変わっているとは思います」

 それは結果にも表れている。今季の逆転勝ちはここまで15試合。昨年はシーズンを通して20試合だったが、早くもその数字に迫りつつある。昨年は4点以上の差をつけられて敗れた試合が37試合もあったのが、今年はまだ前半戦終了時点とはいえ14試合。これはリードされていても、最後まであきらめずに反撃をしている証左だ。

 小川監督が「この連敗中にもそういった形は何試合か出てると思う」と話したように、7月1日の阪神戦(神宮)では2回に6点を先制されながら、最後は1点差まで追い上げた。9日の巨人戦(静岡)でも終盤に6点差をつけられたが、9回裏に山田哲人が史上66人目のサイクルヒットを決める適時三塁打を放つなど、3点差まで詰め寄っている。この8連敗中6試合が3点差以内の接戦だった。

山田哲人「最後のアウトまで全力で」

「すべてにおいて執念を持って、最後まであきらめない姿勢で全力で戦い抜く」 

 3月の出陣式で小川監督がファンを前に誓ったこの言葉は、目に見える形でも出ている。たとえ劣勢であっても、ナインはベンチで大きな声を張り上げ、みんなで前のめりになってグラウンド上の選手を鼓舞する。その光景は、今年は一貫して変わらない。

 下半身のコンディション不良で開幕に出遅れ、4月半ばから戦列に加わった雄平は、復帰当初はその光景にやや戸惑ったという。

「なんか急にみんなベンチに前のめりになってて……。『あれ、どうしたの?』って聞いたら『みんな今やってるんですよ』って。でも、そういうのは大事ですよね。相手から見ても気持ちが入ってるように見えると思うし。声を出すのもそう。それで勢いに乗って逆転したとか、そういうのも絶対にあると思うんで。『声で点を取ろう』みたいな感じでやってますし、そこは僕も意識してます。そういうできることをやっていくっていうのは大事ですし、やれることをやっていくしかない。『凡事徹底』って言いますけど、その積み重ねですよね」

「勝利の方程式」の一角を担う近藤一樹も、セットアッパーの立場から昨年との違いをこう話す。

「粘れるようになっているっていうのが(去年と)変わったところだと思います。『声を出していこう』っていうのはキャンプの時からのチームの方針なんですけど、そういうところもつながっているのかなと思います。ベンチがシーンとしているようだと、どうしてもあきらめムードになってしまうんで。負けることもありますけど、負け方が去年とは違うのかなって思いますし、1人で違う方向を向いてるような感じの人は今いないのかなと思います」

 2点のビハインドを9回裏にひっくり返した6月28日の中日戦(神宮)。サヨナラ3ランで決着をつけた山田が語った「最後まであきらめることは絶対にないので。今年はどれだけ負けていても、最後のアウトまではみんな全力でやろうっていうのは、チームの決め事として常に(宮本)ヘッドコーチや(打撃コーチの)石井琢朗さんに言われてます。それが今日みたいな結果を生んだと思います」という言葉からも、「最後まであきらめない姿勢」がチームの方針として浸透していることがうかがえる。

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著者プロフィール

静岡県出身。地方公務員、英会話講師などを経てライターに。メジャーリーグに精通し、2004〜08年はスカパー!MLB中継、16〜17年はスポナビライブMLBに出演。30年を超えるスワローズ・ウォッチャーでもある。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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