連載:燕軍戦記2018〜変革〜

ヤクルトに浸透する「あきらめない姿勢」前半戦最下位も昨年とは異なる戦い方

菊田康彦

昨季同様の最下位ターンも大きな違いが

最下位とはいえ、2位・巨人とは3.5ゲーム差。CS出場は十分狙える状況だ 【写真は共同】

 その一方で、宮本コーチはこう指摘する。

「もちろん僕らも言ってますけど、本人たちにも(去年)あれだけ負けた悔しさはあると思いますよ」

 昨シーズン、ヤクルトは球団史上ワーストの96敗という屈辱を味わった。その悔しさを晴らそうと、選手たちが必死になっているというのだ。だから、宮本コーチは交流戦最高勝率という勲章も「去年あれだけ負けたっていうところでいうと、彼らにはすごく必要なものだったんじゃないかなと思います」と言う。

 もっとも、最後まであきらめない姿勢や、常に声を出すといったことは、宮本コーチの言葉を借りるなら「必要最低限のことで、それで勝てるほどプロは甘くない」。交流戦ではピタリとかみ合っていた歯車がここへ来てかみ合わなくなり、守りのミスも目立つようになっている。

 だが、昨年と同じ最下位ターンとはいえ、その中身には大きな違いがある。昨年は前半戦終了時点で24もの借金を抱え、5位の中日にも8.5ゲーム差をつけられるなど、ペナントレースからは完全に取り残されていた。それに比べれば、今年は首位の広島には9.5ゲーム差をつけられているものの、2位の巨人までは3.5ゲーム差とそこまで大きく離されているわけではない。

 だから、小川監督も「ウチが交流戦で頑張ったんで、セ・リーグの2位以下は混戦。レベルは低いかもしれないですけど、Aクラスに入るチャンスもあるし、連敗はしてるけど完敗っていうことではないので、自分たちのするべきことができていれば、もっと違う形が出てるんじゃないかなと思う。チームの状況はいい時もあれば悪い時もあるけど、悪い時にどう戦うかというところで、今はミスが出てそれが勝敗に結びついているという悪循環になっている。そこら辺でしっかりとした野球をしていかなきゃいけないし、そういう当たり前のことを後半戦はしっかりできるようにしていきたい」と、これからの戦いを見据える。

後半戦に向けた“最低限”の期待

 恒例のオールスターゲームが終わると、7月16日の横浜DeNA戦(横浜)からはシーズン後半戦がスタートする。ヤクルトの打線は首位打者(青木宣親=05、07、10年、川端慎吾=15年)、本塁打王(バレンティン=11〜13年、山田哲=15年)、打点王(畠山和洋=15年)、最多安打(青木=05、06年、坂口智隆=11年、山田=14年、川端=15年)とタイトルホルダーがズラリと名を連ねているが、山田と西浦直亨、中村悠平を除くレギュラーは軒並み30代。後半戦開始から9月9日までの47試合中、実に40試合を屋外で行うスケジュールは、彼らにとって楽なものではない。

 投手陣に目を向ければ、交流戦制覇の原動力となった近藤、中尾輝、石山泰稚の「勝利の方程式」こそ健在だが、先発で確実に試合をつくってくれそうな投手は、現状では6月の月間MVPに輝いた小川泰弘ぐらい。そう考えると、小川監督が言うように上位進出のチャンスは大いにあるものの、歯車がかみ合わなければズルズルと負けを重ねる可能性も否定できない。

 それでも「変革」への道を歩む上で、まずはどんな状況にあっても「執念を持って最後まであきらめない姿勢」だけは貫いていってほしい。それがこれからシーズン後半戦を迎える燕軍戦士への“最低限”の期待である。 

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著者プロフィール

静岡県出身。地方公務員、英会話講師などを経てライターに。メジャーリーグに精通し、2004〜08年はスカパー!MLB中継、16〜17年はスポナビライブMLBに出演。30年を超えるスワローズ・ウォッチャーでもある。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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