金井大旺、“ゾーン”に入り日本記録更新 東京五輪と歯科医を目指す異色ハードラー

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14年ぶりの日本記録更新

男子110メートルハードルは金井大旺が13秒36をマークし優勝。同時に日本記録を14年ぶりに更新した 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 陸上の日本選手権最終日が24日、山口・維新みらいふスタジアムで行われ、男子110メートルハードルでは、金井大旺(福井県スポーツ協会)が13秒36(追い風0.7メートル)をマークし初優勝。同記録は2004年に谷川聡がマークした13秒39を0.03秒更新する14年ぶりの日本記録樹立となった。

「まだ受け入れられていないというのが、正直なところです」

 日本記録更新のセレモニーを終えて報道陣の前に現れたとき、金井が発した第一声だ。今季は6月3日の布勢スプリント(鳥取・鳥取県立布勢総合運動公園)で自己ベストとなる13秒52(追い風0.5メートル)をマーク。また5月20日のゴールデングランプリ大阪(大阪・ヤンマースタジアム長居)でも13秒53(向かい風0.4メートル)の日本人トップとなる2位に入るなど、好調なシーズンを過ごしていた。

 昨年度まで所属していた法政大では苅部俊二監督の指導の下、順調に自己ベストを伸ばしていたが、日本記録に関しては「自分の中では(13秒)4台を出してからと思っていて……。まさか日本記録を超えるとは」と、今回の記録に驚きを隠せないのが本音だった。

イメージトレーニングが現実化

ハードルの2台目を越えた後は本人いわく「ゾーンに入っていた」。優勝を決めた瞬間はガッツポーズを作った 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 ただレースに関しては予兆がなかったわけではない。

「(レースの)後半には自信があったので、差されることはないかなと思っていました。それで1台目と2台目の間のリズムが良かったのですが、その後はちゃんと覚えていないです……」

 もともとは前半勝負でリードを奪って粘るというスタイルだったが、今季からはなるべく力を使わずトップスピードまで持っていき、後半の失速をギリギリまで抑える展開に持ち込むようになっていた。そのためウェイトトレーニングなどに取り組み、1台目のハードルまでの最初の7歩を強化するための脚力をつけていた。

 またレース前には理想の展開をしっかりと脳に植えつけるため、イメージトレーニングを何度も繰り返していたという。前日には「軽くは動きましたが、9割方がイメージトレーニング」と話すほど、自身のレースを頭の中で描いていた。

 そのイメージにピッタリはまったのか、1台目と2台目を越えた後は「“ゾーン”に入って記憶にない」と本人が語るほど集中。ピッチとリズムが崩れることなく、スピードを保ったままゴールを駆け抜けると、2位の高山峻野(ゼンリン)と体1つ分以上差をつける快走を見せる。優勝を決めて右手でガッツポーズを作ったが、正式タイムが会場に発表されて日本記録誕生に観客がどよめきを起こすと、再び小さなガッツポーズを作った。

「ゴールして、あれって感じで。(13秒)4台かなと思っていたのですが……」

“ゾーン”から覚めた後は、予想外の結果に驚いていたが、「今回は勝つことを目標にしていたので、決勝の日にしっかり自分の体のピークを持っていこうと考えていて、それが成功しました」と事前の準備がすべて結実したことに安堵(あんど)していた。

東京五輪で区切りをつけ歯科医師の道に

将来は歯科医師を目指すという金井。競技に取り組むのは東京五輪までと決めている 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 今回の結果によって8月のアジア大会(インドネシア・ジャカルタ)の代表内定も決めた。「まずはレースプランを見直して、どう戦っていくかを考えたいです。出るからには優勝を目指していきます」と意気込みを語る。

 金井は14年のアジアジュニア(台湾・台北)で優勝したものの、世界ジュニア(米国・ユージーン)では準決勝敗退、17年のユニバーシアード(台湾・台北)では4位という結果で表彰台にあと一歩届かなかった。また今年5月のゴールデングランプリ大阪では、日本人トップにはなったものの陳奎儒(チャイニーズタイペイ)に敗れたこともあり、外国人選手とのレースでは力を出し切れていないことも課題として挙げている。そのためアジア大会に向けては「来月、ヨーロッパ遠征を予定していて、海外の舞台でも自分のレースができる練習をして、アジア大会に向かう予定です」と話す。

 元世界記録保持者で、04年アテネ五輪、07年世界選手権大阪大会を制した劉翔(中国)が現役を去ってからは、同種目のアジアのレベルは下がったと言われるが、それでも13秒23の自己ベストを持ち「ポスト劉翔」と呼ばれる謝文駿(中国)など、アジアの頂点を極めることは簡単ではない。

 それでも「僕は別の道の目標があるので。陸上にしっかり区切りをつける気持ちで、出し切って、悔いはない状態にするのが目標です」と話す。金井は地元・北海道函館市で歯科医院を営む父の仕事を受け継ぐため、陸上競技に取り組むのは20年東京五輪までと決めている。その後は歯科大に再入学し、歯科医師になるための勉強をするつもりだ。

 悔いを残さず五輪で輝くために、まずは8月、アジアの大舞台でナンバーワンの座を目指す。

(取材・文:尾柴広紀/スポーツナビ)
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