メキシコのドイツ撃破を演出した戦術家 オソリオ監督が仕掛ける“次の一手”は?

池田敏明

指揮官が練り上げたプランを忠実に遂行

W杯初戦、メキシコはオソリオ監督(右)の練り上げたプランを選手たちが忠実に遂行し、ドイツ相手に歴史的勝利を手繰り寄せた 【Getty Images】

 ワールドカップ(W杯)本大会のグループステージ第1節で、日本がコロンビアに勝利したことは大きな驚きとともに世界中に伝えられたが、最大の衝撃はメキシコが前回王者ドイツを下したことではないだろうか。ドイツのW杯での初戦敗戦はなんと36年ぶり。優勝候補筆頭格を下したメキシコは、コロンビア人指揮官フアン・カルロス・オソリオが練り上げたプランを忠実に遂行し、この歴史的勝利を手繰り寄せた。

 オソリオ監督の指揮官としての最大の特徴は、フォーメーションもメンバーも固定せず、さまざまな戦術を駆使しながら戦うことにある。時間をかけて相手を分析し、長所をつぶして弱点を突くためのプランを練り、それを選手たちに落とし込み、任務遂行にふさわしい11人を選んで試合に臨む。

 6月17日(現地時間、以下同)に行われた初戦のドイツ戦に向けては、昨年12月の組み合わせ抽選会で対戦が決まってから、実に6カ月間を費やして対策を講じてきたという。そして直前の約1週間で細部を詰め、完璧に王者と渡り合えるチームを作り上げた。右サイドバックでこの試合に出場したカルロス・サルセドはこう証言する。

「1週間、時間をかけてトレーニングし、その間にフォーメーションを変えた。さまざまなシチュエーションを想定し、どのような状況でポジションを上げ、そして下げればいいのかを体に覚え込ませた」

 この言葉から分かる通り、メキシコは防戦一方の戦い方を強いられたわけではない。FIFA(国際サッカー連盟)のスタッツによると、ポゼッション率はドイツの60パーセントに対して40パーセント、パス本数はドイツの595本に対して281本と、データ上はドイツが主導権を握っていたように見えるが、状況によってリトリートとハイプレスを使い分け、鋭いカウンターで何度もチャンスを作り、そのカウンターから得点を奪ったのはメキシコの方だった。

ドイツ戦の鍵は両サイドの選手

ドイツ戦では右ウイングで起用されたラジュン(左)。攻守両面で存在感を示し続けた 【Getty Images】

 オソリオ監督自身はドイツ戦のプランについて、このように語っている。

「われわれのプランは両サイドに選手を置くことだった。イルビング(・ロサーノ)はチームの中で最もスピードのある選手。そして(ミゲル・)ラジュンはゴール前まで攻め込んでいける選手だ。前半はいいプレーをし、ゴールを奪うことができた」

 ラジュンはこれまで左右のサイドバックでプレーすることが多く、右ウイングでの先発は驚きだった。しかし、彼はこの試合で5本のシュートを放ち、チームで断トツ最多となる51回ものスプリントを記録するなど、攻守両面で存在感を示し続けた。

 メキシコがドイツの攻撃を右サイド(メキシコから見た左サイド)に限定させていたというのはすでに広く語られているが、この戦術を機能させるには逆サイドから攻め込ませないようにコントロールする必要があり、ラジュンの右ウイング起用はこの点でも有効だった。オソリオ監督はそこまで見越して、彼をこのポジションで起用したのだろう。

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著者プロフィール

大学院でインカ帝国史を研究していたはずが、「師匠」の敷いたレールに果てしない魅力を感じて業界入り。海外サッカー専門誌の編集を務めた後にフリーとなり、ライター、エディター、スペイン語の翻訳&通訳、フォトグラファー、なぜか動物番組のロケ隊と、フィリップ・コクーばりのマルチぶりを発揮する。ジャングル探検と中南米サッカーをこよなく愛する一方、近年は「育成」にも関心を持ち、試行錯誤の日々を続ける

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