メキシコのドイツ撃破を演出した戦術家 オソリオ監督が仕掛ける“次の一手”は?

池田敏明

効果的だったドイツ戦の交代カード

選手交代でもオソリオ監督戦術家としての側面が発揮された。後半39分には39歳のマルケス(中央、背番号4)を投入 【Getty Images】

 試合中のオソリオ監督は、テクニカルエリアの端に座り込み、ノートに何やら書き込んでいる姿がおなじみの光景となっている。試合中も細かく状況を分析し、チームに微調整を加えながらゲームをコントロールしようと試みているのだろう。ドイツ戦の後半、両チームが選手交代のカードを切り、システム変更に踏み切る中でも、彼の戦術家としての側面が発揮された。

 まずは後半13分のカルロス・ベラからエドソン・アルバレスへの交代。ハイプレスや守→攻に転じる時のつなぎ役など、ハードワークに従事していたベラを交代させるのはチームにマイナスの影響を及ぼす可能性もあったが、オソリオ監督にとってこれは「プラン通りの交代」であり、ベラ本人には「60分間全力でプレーしてくれ」と伝えていたという。最初から60分しかプレーしないことが分かっていたからこそ、ベラは最初からフルパワーで走り続けることができたと考えられる。

 後半15分、ドイツはサミ・ケディラを下げてマルコ・ロイスを投入し、メスト・エジルのポジションをトップ下からボランチに下げてようやくペースをつかみ始めた。するとオソリオ監督はまず左ウイングをロサーノからラウル・ヒメネスに代え、攻撃時に左サイドの起点を残す戦術を採った。しかし率直に言って、これは特に守備の側面で効果的だったとは言い難い。機動力に欠けるヒメネスはドイツの素早いパスワークに対応できず、彼のいるサイドから突破される場面が目立った。そこでオソリオは次の一手を打つ。後半39分のラファエル・マルケスの投入である。

 39歳のマルケスは5度目のW杯出場で、しかも今大会限りでの現役引退を表明している。選手全員、そして国民からリスペクトされるリーダーであり、もちろん選手としても今なお高いレベルを維持している。彼の登場によってスタンドのメキシコサポーターは一気にテンションが上がり、選手たちも心の支えを得て集中力を再度、高めることができた。また、この交代に伴ってオソリオ監督は最終ラインを4バックから5バックに変更し、ボール奪取力に優れたマルケスをボランチに入れて守備の安定を図っている。オソリオ監督によると、センターバック3人の布陣で戦うことも想定済みだったという。

メンバーはほぼいじらず、戦い方を変えた韓国戦

韓国戦にも2−1で勝利し、2連勝。27日のスウェーデン戦では勝ち点1を獲得すれば自力で決勝トーナメント進出が決まる 【写真:ロイター/アフロ】

 準備に6カ月を費やし、直前のトレーニングで細部を詰めて万全のドイツ対策を練り上げたオソリオ監督。実際の試合ではそれがほぼ完璧に機能し、勝利を手繰り寄せることができた。ちなみに、メキシコ国民はそんなオソリオ監督の戦術に対し、これまで「一貫性がない」「メンバーを固定できていない」と猛批判していたが、ドイツ戦の勝利によって一気に手のひらを返した。称賛の嵐が吹き荒れ、SNS上では「#perdonosorio(ごめんなさいオソリオ)」のハッシュタグが溢れた。

 続く23日の韓国戦に向け、メキシコのメディアは大胆なローテーションの採用を予想した。筆者も大幅に選手を入れ替えるのではないか、特に初戦でハードワークを続けたハビエル・エルナンデスやラジュンには休養を与えるのではないかと予想していたのだが、蓋を開けてみると10人が同じメンバー。ウーゴ・アジャラと入れ替わったアルバレスが右サイドバックに入り、サルセドがセンターバックに回っただけで、中盤より前は全く同じ選手、同じ布陣でスタートと、完全に意表を突かれた。

 しかし、戦い方はドイツ戦とは全く違っていた。メキシコのポゼッション率はドイツ戦の40パーセントに対し、韓国戦は59パーセント。パス本数も281本から485本に激増した。ただしポゼッションを攻撃の手段として使っていたわけではなく、相手に攻撃させないためにボールを保持していた、という印象が強い。フィニッシュまでつなげたのは主にカウンターから。韓国が速攻を仕掛けてきたところを複数のプレスでボールを奪い、素早く前に運んでシュートで攻撃を完結させていた。

 J・エルナンデスが決めたチーム2点目は、ドイツ戦のロサーノの得点シーンとよく似たものだった。相手の速攻をブロックしてからのカウンター返し。これが今のメキシコの攻撃パターンの1つと言えるだろう。ドイツ戦に比べて自陣でボールを失う場面が多かったために多くのピンチを招き、終盤には1点を失ってしまったが、2−1で勝利して2連勝。決定機で確実に得点を奪ったメキシコが一枚上手だった。

 続く第3戦、27日のスウェーデン戦では勝ち点1を獲得すれば自力で決勝トーナメント進出が決まる(負けた場合も、他カードの結果次第で突破の可能性あり)。空中戦に強いヒメネスやオリベ・ペラルタを生かす戦術を温めている可能性もあり、またジオバニ・ドス・サントスやマルコ・ファビアンの機動力を生かす布陣で戦う可能性もある。オソリオ監督が仕掛ける“次の一手”に注目だ。

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著者プロフィール

大学院でインカ帝国史を研究していたはずが、「師匠」の敷いたレールに果てしない魅力を感じて業界入り。海外サッカー専門誌の編集を務めた後にフリーとなり、ライター、エディター、スペイン語の翻訳&通訳、フォトグラファー、なぜか動物番組のロケ隊と、フィリップ・コクーばりのマルチぶりを発揮する。ジャングル探検と中南米サッカーをこよなく愛する一方、近年は「育成」にも関心を持ち、試行錯誤の日々を続ける

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