山縣、桐生らが日本最速を懸けて激突! 混戦必至、大会最注目の男子100m

月刊陸上競技

大会2日目の23日に行われる男子100m決勝。今年もハイレベルな激戦が予想される 【写真:アフロ】

 第102回日本陸上競技選手権大会は6月22日〜24日、山口・山口市の維新百年記念公園競技場で行われる。明治維新から150周年という年に、その一翼を担った長州を舞台に繰り広げられる「日本一決定戦」は、8月にインドネシア・ジャカルタで開かれるアジア大会の代表選考会も兼ねており、どの種目でも白熱の勝負が繰り広げられるだろう。

 なかでも、最大の見どころは今年も、2日目(6月23日)に決勝が行われる男子100メートル。日本の陸上界をけん引するショートスプリント勢が“維新の地”に集結し、さらなる短距離革命を起こす。遅まきながら日本も9秒台の仲間入りを果たした今、昨年14年ぶりに100メートル、200メートルの2種目優勝を果たした若手の切り札、サニブラウン・アブデル・ハキーム(フロリダ大)が故障で欠場となるのは残念だが、2016年のリオデジャネイロ五輪、17年のロンドン世界選手権4×100メートルリレーでメダルを取ったメンバーを軸に激戦は必至。選手たちのドキドキ感を一緒に味わいながら、濃密な“10秒”を堪能したい。

山縣亮太は今季日本人に負けなし

今季好調な山縣亮太。優勝候補の筆頭に挙げられるだろう 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 ほんの少しのミスがレースを左右する繊細な種目だけに、100メートルの着順を占うのはかなり難しいが、今季の成績を勘案すれば山縣亮太(セイコー)が優勝候補の筆頭に上がってくる。ここまで4戦して、記録はすべて10秒1台。6月3日の布勢スプリント(鳥取)では、予選10秒12(+0.7)、決勝10秒12(−0.7)と今季ベストを連発した。

 それだけではなく、4月29日の織田記念国際(広島)ではケンブリッジ飛鳥(Nike)を、5月20日のゴールデングランプリ大阪では桐生祥秀(日本生命)、ケンブリッジ、多田修平(関西学院大)を退け、桐生抜きの布勢スプリントでは再びケンブリッジらに先着して優勝。今季は日本人のライバルに負けてない。時にマイナス思考が邪魔をしてきた山縣だが、昨年6位と失敗した日本選手権に向けて、「前向きになれますね」と好材料がそろった。

 昨年は春先に右足首を痛めた影響で、日本選手権はほぼぶっつけ本番で臨んだ。世界選手権出場を逃した悔しさはあったものの、夏場は厳しい練習に取り組み、秋の全日本実業団対抗選手権で10秒00の自己ベスト(日本歴代2位タイ)。その直前に9秒98の日本新を出した桐生とともに、男子短距離の“2枚看板”を張って数年が経ち、それは今も変わらない。

 5年前の13年、まだ高校生だった桐生が春の織田記念で10秒01を出し、日本中が沸き立つ中、その年の日本選手権で桐生を抑えて初優勝を飾ったのが、前年のロンドン五輪で準決勝進出の山縣(当時・慶応大)だった。先輩としてのプライドと意地はその後のレースでも幾度となく見られたが、「日本人として真っ先に9秒台を」という山縣の願いだけは桐生に砕かれてしまった。

 ナーバスなほどにケガ予防に対処し、今年は故障なく、5年ぶりの優勝を狙って山口入りする山縣。従来の勝ちパターンはスタートの第1歩で誰よりも先んじ、そのまま逃げ切るレースが多かったが、今年は春からスタートダッシュに首を傾げていた。しかし、1レースごとに修正を加え、布勢スプリントの決勝では「思い切って重心を前に持っていた」ことで打開策を見出したようだ。

「自分で考えているレースができれば負けない自信はあります」と山縣。今季、まだ誰も出してない10秒0台の勝負になることは間違いだろう。

桐生は「日本記録保持者」として初の日本選手権

夏に調子が落ちる傾向があったため、今年は春先のレースでセーブ。徐々に上げる中でストックホルムでは今季ベストを出している 【写真は共同】

 17年9月9日。日本短距離界が大きく動いた日として、これから長く歴史に刻まれる日だ。男子100メートルで悲願の9秒台を日本人で初めてマークしたのが、当時東洋大4年の桐生だった。その9秒98を引っ提げ、桐生は「日本記録保持者」として初の日本選手権に臨む。京都・洛南高3年時の13年に10秒01(当時・日本歴代2位)を出して以来、常に「10秒の壁」突破の矢面に立たされてきた若きエースが、名実ともに日本チャンピオンに君臨する時が来た。

 今季の出遅れは予想できた。9秒台を出して以降は行事が相次いで、冬季トレーニングもままならなかったこと。10月末の日本選手権リレーまでシーズンを引っ張ったことで、そもそも冬季トレーニングに入る時期が例年より遅れたこと。さらに「ここ4〜5年は春に10秒0台を出して出足は良かったのですが、夏に調子が落ちる傾向にあった」(桐生)ことから、今年は「夏に向けてどんどん調子を上げることをテーマにしている」。練習環境は今までと変わらないが、学生から社会人になる節目の年で何かと練習以外で時間を割かれることも多かっただろう。

 そんなわけで、今季100メートル初戦となったダイヤモンドリーグ(DL)上海大会で10秒26(−0.5)。翌週のゴールデングランプリ大阪では10秒17(−0.7)とし、日本選手権前には2週間ほどスペイン合宿をこなし、6月10日に行われたDLストックホルム大会では今季自己ベストとなる10秒15(+2.0)を記録した。

 日本選手権は、東洋大に入学して1年目の14年に山縣らを抑えて初優勝している。しかし、それ以降は故障で出られなかったり、競り合いからの力みで後塵を浴びたり、春先から10秒0台を連発して絶好調だったはずの昨年も4位にとどまって、ロンドン世界選手権の100メートル代表を逃している。

 大学時代に引き続いて桐生を指導する土江寛裕コーチは、「一番速い」だけでなく「一番強い」選手になるためにも、今年は「力まかせの100メートルからの脱却」を掲げる。「誰かが前にいる、ということで自分の走りが変わってしまうのではなく、自分の方にベクトルを向けて丁寧に走ること」。その走りが上海からできつつあり、ゴールデングランプリ大阪のレース後には本人が「スピードはそう出てないけど、最後まで崩れずにフィニッシュできたのが収穫」と話した。

 桐生のシーズン中のベスト体重は「70キロを少し切って、69.9とか69.8とか」。ゴールデングランプリ大阪の時は「まだ1キロほどオーバー」と打ち明けていた。走りのキレを取り戻すには、そこも重要になるだろう。

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著者プロフィール

「主役は選手だ」を掲げ、日本全国から海外まであらゆる情報を網羅した陸上競技専門誌。トップ選手や強豪チームのトレーニング紹介や、連続写真を活用した技術解説などハウツーも充実。(一社)日本実業団連合、(公財)日本学生陸上競技連合、(公財)日本高体連陸上競技専門部、(公財)日本中体連陸上競技部の機関誌。

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