山縣、桐生らが日本最速を懸けて激突! 混戦必至、大会最注目の男子100m
ケンブリッジ、2年ぶりの日本最速へ調子は上向き
スタートの改善などに取り組んできたケンブリッジ。その課題克服が本番で生かされるか 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
この3人に、200メートルの飯塚翔太(ミズノ)を加えたメンバーが、その年のリオ五輪4×100メートルリレーで見事銀メダルを取るわけだが、今年の日本選手権男子100メートルも山縣、桐生、ケンブリッジを“3強”と見ていいだろう。そして、今の力の差は紙一重。どういう順番になってもおかしくない。
連覇を狙った昨年は、予選で10秒08(−0.9)の自己ベストを出したものの、決勝はサニブラウンと多田に敗れ、10秒18(+0.6)で3位。今年は2年ぶりの優勝奪還へ意欲を燃やす。
冬季は延べ4カ月間、米国アリゾナ州のプロチーム「Altis」で練習を積んできた。そもそも苦手意識が強かったスタートの改善などに取り組んできたそうで、「そんなに簡単には良くならないことは分かっている」と苦笑いしながらも、1戦ごとに手応えをつかんできている。国内初戦の織田記念は10秒26(+1.3)と山縣に0秒09の差をつけられたが、ゴールデングランプリ大阪は10秒19(−0.7)で山縣、桐生に続いて日本人3番手、布勢スプリントは予選で10秒12(+0.9)をマークした。
「まだまだ上がっていきそうな感じはします」と話すケンブリッジの武器は、何と言ってもラストの爆発力。前半の部分に気持ちがいっていた今季序盤のレースは鳴りを潜めていたが、徐々に復活の兆しが見える。
「全体的な完成度を高めて臨みたい」と話すケンブリッジが2年ぶりに優勝をさらうとすれば、山縣や桐生が恐れる、あの脅威の追い上げが再現できた時だろう。
多田は大躍進の昨季から苦悩の年へ
昨年の大躍進から一転、今年は苦悩が続く多田。日本選手権で巻き返すことができるか 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
だからこそ、思うように走れていない今シーズンは苦しい日々が続く。
関西インカレの男子100メートルで4連覇(10秒30/−1.5)を達成できたのは良しとして、その後のゴールデングランプリ大阪で苦悩を深めた。山縣、桐生、ケンブリッジが10秒1台をマークしたレースで、多田は10秒32(−0.7)と0秒1以上離されて日本人4番手。今の立ち位置を如実に物語る内容になってしまった。
昨年はあちこちで見られたさわやかな笑顔が消え、「スタートと中盤の加速が全然ダメです」と厳しい表情を見せた。スターティングブロックを蹴って1歩目を着くと同時に、目を見張るような脚の回転で前半をリードした持ち前のピッチが影を潜めている。「接地が長すぎるんでしょうね」と、多田は原因を探った。
前年と同様、「OSAKA夢プログラム」の支援を受けて冬季に米国へ行き、「新しいスタートの形を教わってきた」と言う。「そこを意識し過ぎて、昔の感覚を忘れてしまっている」と多田。ゴールデングランプリ大阪の後、以前のスタートに戻して布勢スプリントに臨んだが、予選で10秒34(+0.4)、決勝は10秒40(−0.7)とまだ効果は現れなかった。
「今はまったく自分の武器がない」と失意の多田が、日本選手権までにどう立て直してくるか。現状で“3強”に食い込むのは厳しいとしても、あの笑顔を取り戻せるぐらいの結果は欲しい。「山縣さんも桐生さんも、こういう悔しさをバネにして飛躍されているんですよね」。多田は、今が「我慢のしどころ」と分かっている。