中嶋一貴が重視する24時間のメリハリ トヨタのル・マン初制覇へ準備は万全
トヨタはル・マン初制覇向け、アロンソ、中嶋、ブエミ(写真左から)の乗る8号車がポールポジションを獲得した 【Getty Images】
しかし、ポールポジション獲得の記念撮影を終えて、記者会見場へと向かう一貴はすでに決勝レースに向けて気持ちが切り替わっていたようだ。「おめでとう!」と声を掛けても、「ありがとうございます」と言う返事に興奮した様子は一切ない。「自身2度目のポール。気分は違いますか?」と聞くと、「いや、どうでしょう。正直、あんまり予選は大事に思っていないというか、レースのことしか考えてないです」とあくまでもクールな中嶋がそこにいた。
「予選の占める割合は1パーセント」の意味
「ポールを獲得したときの走りは、ほぼマキシマムです。トラックコンディションも良かったですね。昨日は思ったほどトラックコンディションが良かったわけではなく、今日は思ったとおりの走りができました。そしてレースに向けてマシンもいい方向にセットアップできたことが重要です。正直、予選はそこまで重要ではないと思っていて、あくまでもレースがすべて。その意味では、予選が占めている割合は全体の1パーセント程度だと思います。週末すべてを通じて、という意味ですが。僕たちチームもそれを分かっているし、レースはタフですから、最高の価値を目指して進むだけです」と、冷静沈着に答えた。
「予選の占める割合は1パーセント」この言葉の意味は大きい。事実、その場に同席していた他クラスのポールシッターたちも、全員が共感したようだ。この言葉を引用し、「一貴の言う通りだと思う。最後まで走らなくては、その大切さも一貴は知っているはずだ」と16年、残り3分でマシンストップさせた中嶋の苦い記憶を思い出させるコメントすると、中嶋も横で苦笑い。そう、大切なのは24時間後にトップでチェッカーを受けること。それが難しいからこそ、ル・マン24時間レースは世界三大レースのひとつであり、もっとも優勝することが難しいレースのひとつと言われている所以(ゆえん)だろう。
そして、公式会見後、ジャーナリストに囲まれたなかで、再び1パーセントの話題を出した。
「レースは淡々とスタートから最後まで行きたいと思いますが、淡々と行くほど簡単ではないので、何事かが起きるとは思っています。予選の割合は1パーセントでも大きいと個人的には思っていて、最前列にいればいいと思っていました。この予選での、なによりの収穫は、マシンのフィーリングが良かったことが大きいです。8号車の他の2人(フェルナンド・アロンソとセバスチャン・ブエミ)も同じような印象でした。そしてアロンソは軽く雨を経験し、レースに向けてあらゆる準備はできたと思います」とコメント。やはりすべてはレースのため、最後のチェッカーフラッグを受けるためにあることを強調した。
「トヨタのワンツーで戻ってきたい」とアロンソ
チームメートで05年、06年F1世界チャンピオンを獲得したフェルナンド・アロンソも、予選の結果、そしてここまでの準備にはハッピーの様子だ。そして、世界3大レース制覇目指すアロンソもまた、中嶋と同じように、重要なのはレースだと語った。
「明日のレース本番に向けて、スムーズに準備を進める事ができた。レースはタフだ。だからこそ準備は大切だ。24時間後、トヨタのマシンのワンツーで再び戻ってきたい。今日は夜の走行、軽い雨と多くのことが体験できた。そして一貴は素晴らしい走りをした。ポールポジション獲得を『おめでとう』と言いたい」と、チームメートを賞賛した。
一般的にレースの世界では、金曜から日曜にかけてレースのタイムスケジュールが組まれることが多い。しかし、ル・マン24時間レースは、期間においても規模が違う。まず、レース前週の日曜と月曜には街の中心部での公開車検。火曜はファン対応として、サーキットで長いサイン会への出席が義務付けられていて、水曜と木曜にフリー走行と予選が行われる。その後は、金曜昼間に多くのチームが記者会見などを行う。夕方からはル・マン市内でドライバーパレードが行われる。数時間にも及ぶ大イベントだ。そして、土曜午前に最後のウォームアップ走行があり、午後3時にレーススタート。日をまたいで日曜の午後3時にチェッカーフラッグが振られる、というスケジュールだ。
冷静沈着な対応を見せた中嶋。決勝レースはどのような走りをみせるのか、いまから楽しみだ。
実はそんな中嶋に木曜の予選前、ル・マン24時間レース中の過ごし方を聞いた。