日本の守備を機能させた前線の4人 戸田和幸がパラグアイ戦を“解いて説く”
効果的なポジション取りと配球でリズムを作った柴崎
柴崎は効果的なポジション取りと配球でリズムを作った 【Getty Images】
乾はサイドからのドリブルを使った仕掛け、武藤はハーフスペースで起点となりながら、斜めのランニングで背後に飛び出すといった形で、前線の4人は4者4様の働きを見せました。
攻撃の基本原則として「幅と深さ」が挙げられます。この試合にはこの基本原則に則ったポジショニングからの動きが多く見られ、その上に個人の特徴も表現されていたと思います。
山口がバランスを取り、柴崎がより主体的に動きながら縦パスを入れる。または1点目のシーンのように、柴崎が相手中盤の後ろ、DFとMFのライン間に入って相手中盤の意識を「後ろ」に向けさせたことで山口をフリーにし、昌子源の持ち上がりを引き出すといった効果的なポジショニングも見せています。
柴崎のボールを受ける時のタイミングの取り方と角度のつけ方、次に向かう方向に対する体の向きの作り方、1つ目のボールを置く位置、常にリラックスしている上半身の柔らかさを見ると、十分にこのレベルのコンペティションで自分を表現する準備は整っていると感じました。
日本のストロングを久々に感じた試合
クロスやスルーパス、ドリブルなど攻撃を仕掛けたエリアのシェア 【データ提供:データスタジアム】
パラグアイの守備は「4−1−4−1」で対応していたものの、思いのほか柴崎のところにボールが渡っても寄せて来なかったという側面ももちろんあります。通常アンカーがスペースを管理するので、インサイドハーフはこの試合で言うと山口と柴崎に対してもっと強い対応をする必要がありました。なぜそうならなかったのか。理由は2つあると思います。
1つはパラグアイのこの試合における具体的なオーガナイズとプランの欠如。もう1つは前線の4人のポジショニングです。今ひとつはっきりしないパラグアイの守備を見ていて、コンディションはもちろんですが、そもそもの「具体的な何か」がどれくらいあるのか疑問に思いました。
何度もアンカーの脇で香川や武藤にパスレシーブされているにもかかわらず、出どころをつぶしにくるわけでもなく、またしっかりと中を締めて外に追いやるということもなかった。前半に限れば遠藤航のところがブレーキとなってしまっていたので、パラグアイにとっては助かったところはありましたが、試合を通じて彼らの守備には明確な狙いと強度が足らなかったのは事実だと思います。
もう1つの理由は前線の4人のポジショニングが良かったからです。ボールを触るためにムダに下がることもなく、お互いがかぶってしまうこともなく、ライン間で角度を付けた待ち方ができていました。
岡崎が香川にスペースを与え、香川が柴崎へのプレスを止めるといった縦の連係が作れていたので、パラグアイからすると奪いにいく場所やタイミングが明確でなかった分、日本に中盤を渡すことになりました。
ファーストディフェンダーを積極的に、明確に決めて守備を行った日本と、最後までそれが定まらなかったパラグアイ。その違いはとても大きかったです。
距離は近いものの決してかぶることなく、狭い空間の中でワンタッチパスで打開してドリブルからシュートを決めた乾の1点目は見事でした。ライン間に多くの選択肢を作り、昌子からのパスをきっかけにスピードが上がりましたが、パスを出した後の左前方への香川のランニング、そしてゴール方向へとプルアウェイしてDFを引き連れて乾にドリブルできるスペースを与えた岡崎の動きも見逃せないポイントです。
こういった1つの局面を作るために、複数の選手がかかわることが日本の持つストロングポイントなのではないかと、久々に感じさせてもらえた試合だったと思います。
クロスから決定機を与えたことにも目を向けるべき
パラグアイ戦で出た課題にも目を向けつつ、コロンビア戦に臨んでほしい 【Getty Images】
であれば、この試合でクロスから決定機を作られたことをどう受け止めるか。
開始1分、中盤でこぼれ球に山口がアプローチしましたが、寄せが甘く方向も間違えてしまったので逆サイド、広い方へ展開させてしまいコントロールからクロスを上げられた。失点しても全くおかしくない形でした。
前半40分には柴崎・山口の2人でチャレンジするもサンタンデールに前を向かれ、サイドに展開されると左SBの(フニオール・)アロンソに1タッチでのアーリークロスを上げられ、ぎりぎりオフサイドになった場面もありました。
後半1分には押し込む形での攻撃後、サンタンデールのところに入ったロングパスに対し誰もアタックせず、右サイドへ素早く展開されてアーリークロス。これもほとんど失点という場面です。後半29分にもCKのこぼれ球を奪われ、日本の右サイドからクロスを上げられ決められるも、これもギリギリのオフサイドで救われた。
中央で起点を作られ、サイドへ展開されてからのクロス。コロンビアとポーランドは、特にこの形が得意です。コロンビアには(ラダメル・)ファルカオと(ミゲル・)ボルハ。ポーランドには(ロベルト・)レバンドフスキに(アルカディウシュ・)ミリクがいる。もちろんセネガルにもこの2チームほどではありませんが、高さと決定力があります。
ここまで書かせてもらったように、パラグアイ戦は良いものが多く見られた試合ではありましたが、数多くの決定機を相手に与えたことにもきちんと目を向け、コロンビア戦へと臨んでくれたらと願っています。
どのようなメンバー、ゲームプランになるのか全く分かりませんが、日本人として、われわれの代表としてロシアで戦ってくれる日本代表チームに、心からのエールを送りたいと思います。
※敬称略。本スタッツデータは公式とは異なる場合があります。