日本の守備を機能させた前線の4人 戸田和幸がパラグアイ戦を“解いて説く”

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パラグアイ戦は香川(左)ら前線の4人の守備が光った試合だった 【写真:ロイター/アフロ】

 サッカー日本代表は12日、オーストリア・インスブルックのチボリ・シュタディオンで、パラグアイ代表と国際親善試合を戦い、4−2で勝利した。

 ワールドカップ(W杯)ロシア大会前最後のテストマッチとなったこの試合について、サッカー解説者の戸田和幸さんは、「日本はポジティブなものを数多く見せてくれた」と語る。一方でクロスへの対応などネガティブな要素も存在したという。W杯初戦となる19日のコロンビア戦に向け、この試合をどう振り返るべきなのか。データスタジアム株式会社のデータを用いながら、解説してもらった。

メンタル・フィジカルとも日本が優位だった

プレーエリアのシェアと各選手の平均ポジション 【データ提供:データスタジアム】

 ガーナ、スイスと2試合続けて敗れた中、日本は具体性が見えづらいサッカーを見せました。コロンビアとのW杯初戦に向けた最後のテストマッチとなったパラグアイ戦では、大幅にスターティングメンバーを変更して臨みましたが、相変わらずネガティブ要素も存在しつつ、非常にポジティブな要素も見ることができた試合となりました。

 この試合の日本のシステムは「4−2−3−1」、香川真司がトップ下で、岡崎慎司の1トップ。対するパラグアイは「4−1−4−1」、1トップのフェデリコ・サンタンデール(コペンハーゲン)はチャンピオンズリーグ出場経験もある、献身性と力強さを兼ね備えたストライカーです。

 スタート時の両チームを見て個人的なポイントとして挙げたのは以下の2つでした。

(1)柴崎岳、山口蛍の役割分担と前線4人の攻守における連係
(2)パラグアイのサンタンデールの使い方と周りのサポートの仕方

 まずはこの試合での日本代表のパフォーマンスから検証してみたいと思います。

 パラグアイはW杯には出場できない、そして代表としての活動は3月28日の米国戦以来となります。この試合で彼らのシステムは「4−1−4−1」ですが、日本戦から10試合さかのぼってみると、全て「4−2−3−1」で臨んでいました。守備時は「4−4−2」で構えるというスタイルの国が、この試合においては1アンカーを採用した。

 日本が戦うことになるコロンビアに勝利した試合(2−1、2017年10月6日)はフルマッチで確認しましたが、守備時の陣形は「4−4−2」。相手のセントラルMF、この時は(アベル・)アギラルとカルロス・サンチェスのところに2トップ(この試合ではデルリス・ゴンサレスとアンヘル・ロメロ)が立つところから守備がスタートし、低い位置で奪って素早いカウンターを狙うという戦いを見せています。パラグアイの2得点は共にコロンビアGKダビド・オスピナの明らかなミスによるものでしたが、粘り強く対応し、終盤の2点で逆転勝利をもぎ取っています。

 どういった理由でこのオーガナイズを選んだのかは図りかねますが、中盤を厚くして低めのゾーンで引っ掛けたボールをトップに当ててカウンターという形を狙ったのかなと感じました。

 なぜならもし仮に「4−1−4−1」からボールを奪いに出るとなると、4バックのチームに対しては1トップに加えてインサイドハーフが1枚前に出て共にチェイシングを行い、インサイドハーフが出たことで空いたスペースをアンカーが1つ前に出て埋める「4−4−2」の形でプレッシングを行うという守備戦術があります。しかし、この試合において彼らはそういった守備を行いませんでした。

 また、全体的な動きもやや重く見え、メンタル・フィジカル両方のコンディションでの優位性は明らかに日本にあった試合だったとも感じました。そういった前提があったとしても、この試合での日本はポジティブなものを数多く見せてくれたと思います。

前線の4人は1人で複数のパスコースを消せる

ボールを奪ったエリアのシェア 【データ提供:データスタジアム】

 日本がこの試合で良かったこと、それは前線4人の守備です。岡崎と香川は6番の(リチャル・)オルティスへのパスコースを消しながら、巧みなポジション取りとチェイシングで中盤より後ろの選手に奪いどころを提示し続けました。

 そして左MFの乾貴士と右MFの武藤嘉紀は中央のゾーンを使わせない守備を行う岡崎と香川にしっかりと連動する形で、横に出てくるパスをけん制しながら、いざボールが出てきたらスプリントでアプローチしました。自分の頭を越えていったボールに対しても、素早い反転で挟み込む守備に移行しつつ、攻撃面でも大きな仕事をしています。

 特に乾に関しては、さすがリーガ・エスパニョーラ、エイバルで(ホセ・ルイス・)メンディリバル監督の下でたたき込まれただけあるなという守備を披露しましたね。ビルドアップ時に開いてボールを受けようとする右センターバック(CB)の(グスタボ・)ゴメス、自分の斜め後ろにポジションを取る右サイドバック(SB)の(アラン・)ベニテス、そして内側への縦パスの3つのパスコース全てをけん制するポジション取りからハードワークをしていました。後半34分に宇佐美貴史が交代で入ってから一気に左サイドの守備が崩れてしまいました。それがはっきりと分かるくらい、乾の守備面での仕事の質は高かった。

パラグアイ戦、岡崎慎司のプレーエリア。バランス良く、しかもゴールに近いエリアで動けている 【データ提供:データスタジアム】

 パラグアイも香川と岡崎の立ち方と追い方が嫌だったのでしょう、10分頃にはアンカーのオルティスが2CBの間に下りる形でビルドアップを行うようになりました。

パラグアイ戦、香川真司のプレーエリア。こちらもバランスよく、ゴールに近いエリアで動けている 【データ提供:データスタジアム】

 1人で複数のパスコースを消すことができる選手が武藤を含めると4人いた日本は、セットしたところから3バックになったパラグアイに対しても、基本的には2トップ(岡崎と香川)に乾を加えた3人でチェイスしていました。効果的に外側へと追い出してスモールフィールドを作ることで、中盤と最終ラインに奪いにいかせるきっかけ、スイッチをしっかりと入れてくれました。

 山口と柴崎の2セントラルMFがわざわざ1つ前、もしくはサイドまで無理やりつり出されるような場面は、乾がベンチに下がるまでなかったことを考えても、「攻撃は後ろから、守備は前から」という言葉通り、この試合の日本の守備を機能させたのは前線の4人でした。

SBの縦へのスライドは課題を残した

酒井高徳のベニテス(白)へのアプローチが遅れる場面もあった 【Getty Images】

 ただし前線からの守備が機能したように見えた中、後ろの動きで気になるところがありました。

 アンカーのオルティスへのパスコースは香川と岡崎が消してくれている、もしくはオルティスは最終ラインまで下がったものの前の2人が巧みに中央ゾーンを消してくれるので、柴崎と山口は自分たちの持ち場を離れる必要がなく、しっかりと準備して対応することができました。

 そうなると残る選択肢はサイドとなりますが、乾の秀逸なポジション取りの結果、GKから右SBへとロングパスを蹴り、つながってしまった場面が前半25分と後半3分の2回ありました。もしチームとして乾にハーフポジションを取らせているのであれば、後ろに構える酒井高徳は相手GKからすると「そこしかない」少し高めの位置取りをした右SBのところまで縦にスライドしてアプローチしなくてはなりません。

 もちろんアンカーが落ちてSBが高めの位置取りをすると、サイドハーフは内側に入ってシャドーに近いポジションを取るという話は、スイス戦のレビュー時に書きました。
 動いた相手チームの誰を、どこを気にしなくてはならないのかということは、あくまでもボールの状況に起因します。この試合の日本の守備は、既に書きましたが、前線の4人が非常に効果的なポジショニングとチェイシングを行ってくれたおかげで、後ろの選手たちは次の場所を探すのが楽だったと思います。

 ということは、必然的にパラグアイのビルドアップ時の選択肢はどんどんなくなっていくことになりますが、それを意図的に行っているはずの日本側が、出てくるロングパスに対して反応できていないという現象が前後半で一度ずつ見られました。

 一度目の場面では乾がハーフポジションから反転してスプリントで戻りつつ、ボールがサイドラインを割った後に後ろの選手に対し、「前に出てこい」と主張しています。

 どちらの場面も、完全にフリーな状態で右SBのベニテスがパスを受けてしまっています。縦のスライドが行われなかった結果、効果的なスペースケアとチェイシングを行った前線の4人は置き去りにされました。加えて柴崎と山口も中央のエリアを守っているので間に合わず、酒井高徳の数メートル前でフリーな選手を作らせてしまいました。

 もしベニテスのコントロールが決まっていたら、そこからフリーで日本人内へ入り込まれスペースへ流し込まれる、斜めのクサビのパスを入れられるという非常に嫌な状況を迎えていたのは間違いありません。一見、機能していたように見えた守備にも、実は危険な状況につながりかねない綻びがありました。

 この試合で見られた守備は、香川、岡崎、乾といったハイスタンダードな守備を会得している個人の努力によってもたらされたものだと見ました。それをよりチームとしてしっかりと理解・共有して、いざコロンビア戦へと向かってほしいと思います。

 間違いなく守備で主導権を握り、それが攻撃に良い形でつながっていった試合でした。

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