競泳とOWSに挑む森山幸美 愛知で力を蓄えた“デュアルスイマー”

田坂友暁

高3で能力が一気に開花 ジュニア大会初出場で優勝

8月のパンパシフィック選手権には、競泳とOWSの両方で日本代表に選ばれた 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

「通っていたスイミングでも、豊川高校でも、自分が『泳ぎたい!』という気持ちを大切に指導してくださいました。だから、きつい練習でも頑張れましたし、水泳が好き、という気持ちを持ち続けられたのだと思います」

 当時を振り返って、森山はこう話す。そんな森山が、OWSと出会ったのは豊川高時代のことだった。
 3年生のときに行われたジュニアの国際大会のひとつ、ジュニアパンパシフィック水泳選手権。大会に競泳ではなくOWSなら出場できる事を伝えられ、出場意思を問われた森山は、チャレンジしたことのなかったOWSという競技だとしても国際大会に出場できる道を選んだ。

 この年の8月、オーストラリア・ゴールドコーストで行われたパンパシフィック選手権のOWS競技は、悪天候のため中止。その代替え大会として、次の週に開催されるジュニアパンパシフィック選手権(米国・マウイ)があてがわれ、OWS競技は五輪や世界水泳選手権で活躍するようなシニアの選手たちと一緒にジュニア選手たちが泳ぐ、という異例の事態になっていた。
 おそらく、初出場だった森山に10キロという長丁場のレースを組み立てることは不可能だっただろう。しかし、レースの組み立てはOWS経験豊富なシニア代表選手たちがやってくれるなら、あとは頑張ってついていけばおのずと結果はついてくる。そう信じた森山は、シニア代表選手たちの第2集団の位置をキープし続け、なんとOWS初出場で初優勝という快挙を成し遂げた。

 言葉にすると簡単だが、高校生ながらシニアのOWS代表選手たちの泳力についていける力を持っていた森山のすごさが良く分かる。
 こうして、森山はOWSのキャリアをスタートさせたのである。

「競泳もOWSも、両方楽しい」

 日本の女子OWSの第一人者には、貴田裕美(コナミスポーツ)がいる。01年の福岡で行われた世界水泳選手権に800メートル自由形の選手として出場して以来、長く現役を続けている選手だ。10年にOWS選手としてのキャリアをスタートさせた貴田は、16年8月のリオデジャネイロ五輪まで、国内では負けなしと言える強さを誇っていた。

 森山は五輪直後のOWS日本選手権(9月)で、0.1秒差という大接戦の末に女王貴田を破って初優勝を飾ると、17年の同大会も制して2連覇を達成。それと同時に、競泳日本選手権でも記録を伸ばし始め、17年と18年の800メートル自由形で2連覇。その結果を受けて、今年8月に東京・辰巳国際水泳場で行われるパンパシフィック水泳選手権の競泳日本代表、そしてOWS日本代表を勝ち取ったのである。

 どんなにきつい練習も、楽しい水泳のためなら頑張れる。そんな強い気持ちを育んでくれた愛知県を飛び出し、日本有数の厳しさを誇る日本体育大学に進学した森山も、もう4年生。4年間、頑張り続けた成果は、確実に結果、そしてタイムとして表れ始めている。

「静水面ではない場所で泳ぐOWSのおかげで、水の感覚がすごく良くなっています。それに、競泳のスピードはOWSの最後の接戦やスパートに役立ちますし、OWSの持久力は競泳にも生きます。だから、どっちかに絞る、という選択は考えていません。競泳も、OWSも、両方楽しいですから」

 森山は、笑いながらそう話す。森山の笑顔を見ていると、なぜかつられてこちらも笑顔になってしまう。あどけなさが残る森山だが、その裏には強い意志を携えたアスリートの顔も併せ持つ。

 きっと東京五輪でも、森山はプールで、そして海でも泳いでる。泳ぎ終わったあとに見せる森山の笑顔を見ていると、そんな未来が目に浮かぶ。デュアルスイマーとしての初の五輪代表を目指し、森山はプールと海の両方を主戦場として、これからもふたつの場所で泳ぎ続けていくことだろう。そしてふたつの表彰台の上で、森山の笑顔を見たいと、そう願っている。

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著者プロフィール

1980年、兵庫県生まれ。バタフライの選手として全国大会で数々の入賞、優勝を経験し、現役最高成績は日本ランキング4位、世界ランキング47位。この経験を生かして『月刊SWIM』編集部に所属し、多くの特集や連載記事、大会リポート、インタビュー記事、ハウツーDVDの作成などを手がける。2013年からフリーランスのエディター・ライターとして活動を開始。水泳の知識とアスリート経験を生かした幅広いテーマで水泳を中心に取材・執筆を行っている。

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