アルバルク東京に感じるポテンシャル Bリーグ王者は頂点ではない!?
25点差の快勝劇
優勝が決まった瞬間に喜びを爆発させるアルバルク東京の選手たち 【加藤よしお】
一発勝負で行われた2017−18シーズンのB1チャンピオンシップ(CS)決勝は、想定外の大差で決着した。A東京は前半を43−33と千葉ジェッツに10点リードで折り返すと、後半はさらに突き放して85−60と圧倒。Bリーグ2季目の王者に輝いている。
ルカ・パヴィチェヴィッチ・ヘッドコーチ(HC)が事前に警戒していたのは千葉の「速攻」と「オフェンスリバウンド」だった。
決勝戦のMVPに輝いた田中大貴は「ディフェンスの勝利だったと思います」と口にしつつ、持ち味の守備力が生きた理由をこう振り返る。
「千葉はファーストブレイク(速攻)が得意なチームで、HCからもずっと『走らせないためには自分たちのオフェンスをいい形で終えることが大事』と言われていた。それができたから相手を走らせず、苦しめることができた」
加えて相手の分析も緻密だった。試合によって守備のシステムを変える千葉に対して、A東京はいくつかのパターンを想定。それぞれに対する選手とボールの動きを事前に整理しており、ルカHCは「このようなディフェンスなら、ここを狙うという指示をしていた」と明かす。選手がそれを遂行した結果が、25点差の快勝だった。
「一番真摯に取り組んだチーム」
A東京が「強豪」の仲間入りを果たしてからまだ20年ほどだ。「トヨタ自動車バスケ部」時代は1990年代まで無冠で、愛知県内で活動する野球部やラグビー部に比べれば日陰の存在だった。入替戦ぎりぎりに沈む状態だったチームを変えたのが、93年に入社した折茂武彦(現レバンガ北海道)。彼がバスケ部の顧問だった本社役員を巻き込み、会社は施設やスタッフの充実、有力選手の補強に動いた。トヨタ自動車は2001−02シーズンには当時のJBLスーパーリーグを制して初の日本一に輝き、そこから強豪の仲間入りを果たす。
ただしBリーグ発足によって、選手の移籍は活発化した。プロは試合に出なければ実力を高められず、自身の価値も上げられない。現日本代表の宇都直輝(富山グラウジーズ)、張本天傑(名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)は、Bリーグ初年度を前にA東京から他クラブへ流出した選手だ。
結果として人材は散り、いわゆる実業団系の優位も薄れた。旧bjリーグ勢も含めた新興勢力が相対的に浮上し、Bリーグ開幕後はプロとして立ち上がったクラブが主要タイトルを取っている。昨季のCSを制したのは栃木ブレックスで、天皇杯は千葉が2連覇中だ。
昨季のB1は5強と評されたが、今季は琉球ゴールデンキングスも含めて6チームが横一線に並ぶ構図だった。となればバスケの中身で勝負することが、そこから抜け出す大前提だ。
A東京の恋塚唯GMは言い切る。「Bリーグで一番真摯(しんし)にバスケットへ取り組んだチームは僕らだと自負している。その成果が出たのだと思います」
コート内外の好循環
優勝後のビールかけでルカHCとともに喜ぶ恋塚唯GM(右) 【(C)B.LEAGUE】
A東京は親会社からの出向が職員18名中、総務担当の2名のみ。林邦彦社長はクラブの株主でもある三井物産グループの出身で、広島カープの球場運営などスポーツビジネスに関わったキャリアを見込んで起用された。恋塚GMはJリーグ・川崎フロンターレでプロモーションの専門家として活躍し、14年にバスケ界へ転身。Bリーグ発足前のトップリーグだったNBLでは最終的に事務局長を務めていた。
A東京は恋塚が中心となり、営業、運営、広報といった諸部門にスポーツビジネスの専門家を集めた。NBLの他クラブはもちろん、JリーグやNBAでキャリアを積んだ人材もいる。
株主として、大スポンサーとして、トヨタ自動車のサポートは間違いなく大きい。ただし選手やスタッフは「結果を出せなくても親会社に戻れる」という企業スポーツの論理で動いていない。人材をそろえ、戦略を持つのは組織として当然だが、A東京はそれを2季目でコート内の結果に結びつけた。