アルバルク東京に感じるポテンシャル Bリーグ王者は頂点ではない!?

大島和人

クラブのキーパーソン、ルカHC

ルカHC(中央)は、CSに入ってからその勝負師ぶりを見せた 【(C)B.LEAGUE】

 コート内のキーパーソンはもちろんルカHCだ。恋塚GMはその起用理由をこう説明する。

「代表選手が(A東京に)たくさんいる中で彼らからの評価を聞いて、日本代表の成果も見て、チームをベースから作れる数少ないHCだと感じていた。企業チームから脱却して新しいプロチームとして立ち上がるためには、ベースを作らなければいけない。若い選手から育て上げていきたいのでルカにしました」

 ルカHCはセルビア・モンテネグロ出身の49歳で、現役時代にはガードとしてトニー・クーコッチ(元シカゴ・ブルス)らとともに欧州チャンピオンズカップ(現ユーロリーグ)で3度優勝に輝いた名選手だった。フリオ・ラマス現HCへの「つなぎ」ではあったが、17年6月まで男子日本代表の指揮を執っている。代表でルカHCの指導を受けた千葉の富樫勇樹は、決勝戦後にこう述べていた。

「ルカHCと代表で一緒にやっていたので、彼の練習の強度や徹底した準備を知っている。アルバルクの選手はそれを1年間やってきて、努力もしたと思う。その自信を今日の試合はやっていて感じた。素直におめでとうという気持ちです」

 富樫も触れるようにルカHCの指導は厳格で、練習内容もハードだ。A東京はシーズン中から練習の質量に対する自信を口にする選手が多かった。竹内譲次はルカHCの就任当初を振り返る。

「夏の時期は2部練が3日続いて1日休むサイクルでした。3日目の午後とかはみんな足にきていて、疲れからイライラしている選手もいた。コーチも3日間も怒鳴り続けると、正直疲れると思うんですけれど、ルカは熱量が落ちない。そこは本当にすごいなと感じます」

 CSに入ると練習量は減らして今度はコンディションを上げ、準々決勝の京都ハンナリーズ、準決勝のシーホース三河にそれぞれ2連勝。5戦無敗でCSを制した。

 田中が「言ってしまえばまだ1年目のチーム」と評するように、A東京はまだ完成したチームではない。今季の戦いも波があり、ダバンテ・ガードナー(新潟アルビレックスBB)のような「重量級」に、ゴール下のポストプレーから大量得点を許した試合もある。A東京はビッグマンも含めて「走れる」タイプをそろえたチームで、パワー系選手には相性が悪い。それでもルカHCは頑固に「1対1で守る」方針を貫いていた。

 今振り返ればそれはチームのベースを作るための「入口」だった。A東京はレギュラーシーズンの最終盤から、要所で2人目がヘルプに入るシステムを使い始めた。

 キャプテンの正中岳城は説明する。「3月までずっとひたすら同じことをやり続けた。そこからはCSで勝ちにいくことを考えて、1対1の局面の強さだけでなく、スマートにプレーするということを付け加えて戦えた。(ルカHCは)最後に勝負師の部分も見せてくれた」

本当の飛躍はこれから

A東京にとって、今回の優勝は大きな飛躍へのステップとなるのだろうか 【加藤よしお】

 A東京が決勝で戦った千葉の大野篤史HCは2季目、準決勝で対戦した三河の鈴木貴美一HCに至っては就任23年目だ。しかしA東京は就任1年目の指揮官の下、程よい未熟さ、伸びしろを残してB1を制した。

 可能性の大きさはコート外も同様だ。恋塚GMはクラブの現状をこう説明する。

「プロとして地域に根差して、集客をして、営業利益を上げる。選手たちはファンサービスをするという軸をしっかり作っていくことから始めています。まだ過程ですけれど、順調に進んでいる」

 A東京は国立代々木競技場第二体育館をホームとしていたが、東京五輪に向けた工事期間に入ったため使用できなくなった。今季はアリーナ立川立飛をホームとしているが、ここは3000人規模の施設。今季の平均観客数は2500名程度にとどまっている。B1ライセンスの要件となる5000人以上のアリーナも確保できていない。

 もっとも将来的なメドは立っている。場所、規模などの概要はまだ発表されていないが、都内に新築される施設への移転を前提にして、2018−19シーズンのB1ライセンスは付与された。クラブが本当の意味で飛躍をするのは、新アリーナが完成してからだろう。

 ただしA東京はプロクラブとしての運営、バスケットボールという競技へ真摯(しんし)に取り組み、次につながる「ベース」を構築している。このクラブにはコート内外でもっと大きな「電撃」を放つポテンシャルがある。今回の優勝は彼らにとっての頂点でなく、より大きな飛躍へのステップとなるはずだ。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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