史上最速169キロから8年、未だ健在 チャプマンが語る速球王のプライド

杉浦大介

今季もメジャー最速はチャプマン

大谷ら100マイル超を投げる新顔が現れても、快速球の代名詞と言えばいまだチャップマンだ 【Getty Images】

「速球は僕にとってとても大事な球種で、もちろんナンバーワンの球。スライダーと混ぜ合わせて使うけど、生きた速球を持っていることこそが自分にとって重要な要素なんだ」

 ニヤリと微笑みながらそう述べる姿に、現代の速球王としてのプライドがにじんだ。背番号54をつけたヤンキースの守護神、アロルディス・チャプマンこそが“史上最速のピッチャー”。2010年にマークした105.1マイル(169.1キロ)はいまだにギネスブックに刻まれる球速の世界記録である。 

 今季は“二刀流”の使い手としてセンセーションになった大谷翔平、Statcastの速球部門で上位の常連になったカージナルスのジョーダン・ヒックスなど、100マイル(160.9キロ)台の真っ直ぐを投げる投手が新たに現れている。

「大谷? 凄く速い球を投げるし、コマンド(狙ったところに投げ分ける能力)が良いのが長所だね。変化球も備えているし、とても総合力の高いピッチャーだ」

 チャプマンも大谷のストレートの質の高さには気づいているようだが、そのコメントには“先輩”の余裕が感じられる。

 年々速球派が増えている現代のメジャーにおいても、やはり依然としてチャプマンこそが快速球の代名詞的な存在。今年は開幕直後こそ球速はやや抑えめだったが、5月8〜10日のレッドソックスとの3連戦では今季メジャー最速の103.3マイル(166.2キロ)、同2位の102.6マイル(165.1キロ)を投げ込んで健在ぶりをアピールした。

「短命」「不安定」の声覆す

メジャーに衝撃を与えたチャップマンも、加入当時は制球難も相まって「ピークは短いだろう」と予想されていた 【Getty Images】

 チャプマンが10年にレッズの一員として入団した頃は、その存在は衝撃的ではあっても、長続きはしないと思われていた。

 同年の8月にメジャー昇格後、103〜105マイルといった尋常ではない速球を頻繁に投げ、翌年4月18日のパイレーツ戦ではスタジアムの表示で106マイル(約171キロ)というとてつもない数字をマークした(注・テレビ中継などの数字と異なっていたために公式記録と認定されず)。ただ、当時は制球に難があり、11年は50イニングで41四球。客を呼べる選手ではあるが、絶対の信頼はおけないピッチャーという印象だった。

「105マイルなんて球を投げることが可能だとしても、数年限りに違いない。これまでそんな速球を投げる投手がいなかったのには理由があって、103マイル以上は人間の肘、肩が耐えられる限界を超えているんだ。ピークは短いだろうから、今のうちに目に焼き付けておくべきだね」

 チャプマンがMLBで活躍を始めた頃、あるベテランスカウトがそんな風に語っていたのが印象的だった。確かに160キロ台後半などという速さの真っ直ぐはほとんど荒唐無稽であり、このフィクションじみた速球を維持できるはずはない。行き場のわからない速球で数年間はメジャーを震撼(しんかん)させるも、故障か、球速ダウンで、“キューバン・ミサイル”は遠からずうちに存在感を失っていくと予想した関係者は少なくなかった。

 しかしーー。チャプマンはその後も安定した活躍を続け、12年以降は5年連続で30セーブ以上。15年まで4年連続でオールスターにも選ばれ、球界全体の呼び物としてすぐになくてはならない存在になった。

 16年にはシーズン中にヤンキースからカブスに移籍し、実に108年ぶりの世界一にたどり着いたカブスの切り札的存在になったのは記憶に新しい。その年の12月には、リリーフ投手としては史上最高額の5年8600万ドルでヤンキースと再契約。“働けるのは数年限り”と予測した一部の否定論者をあざ笑うように、チャプマンは今やリーグ屈指の抑えの切り札として確立した。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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