史上最速169キロから8年、未だ健在 チャプマンが語る速球王のプライド

杉浦大介

「速球は“ギフト”なんだ」

大きな故障もなく世界最速の男であり続けているチャップマン 【Getty Images】

 特筆すべきは、こうして上昇、安定する過程で、チャプマンは常に快速球を保ち続けてきたことだ。13年の最高球速は104マイルで、14年はシーズンを通じての4シームの平均球速が100マイルを突破。前述通り、30歳の大台に乗って迎えた今季も依然として102〜103マイルを堂々と投げ込んでいる。

 これほどの速い球をどうやって維持し、なぜ故障もせずに投げ続けられるのか。そんな身も蓋もない問いを本人にぶつけると、答えはシンプルだった

「フォームを固めたり、向上するための手段はたくさんある。ただ、速球に関しては結局のところは“ギフト”だと思う。速球派のピッチャーというのは、調子が悪かったり、多少フォームが崩れたりしても、同じように速い球が投げられるものなんだ。自分が重要な才能に恵まれたことには感謝しているよ」

“ギフト(贈り物)”という言葉は、チャプマンのように常識を超えた選手を表現するのに適切な言葉なのだろう。160キロ台の速球を連発しても大きな故障を経験せず、30代になっても衰えを見せない剛腕。今季も奪三振率(奪三振数/対戦打者数)は48%と高く、14年の52.5%に次ぐ自己2位のペースだというのだからもう誰にも文句は言わせない。

チャップマン自身もファンも、その速球をまだまだ楽しみにしている 【Getty Images】

 ファンにとっても、これだけの速い球を投げるピッチャーにはわかりやすい魅力がある。9回にチャプマンが登場すると、ゲームの行方だけでなく、スコアボードのスピードガンの数字を眺める楽しみも生まれる。何よりもファンを喜ばせられるサウスポーは、今季の大谷と似たような意味で、ベースボールファンにとって“ギフト”だったに違いない。

「僕にも別の形でアジャストメントを進めなければいけない日がいつかくるのだろうね。ただ、少なくとも今はまだ気分良く投げられている。投球スタイルを変える日がそれほど近いうちに来ないことを願っているよ(笑)」

“いずれ変化球に依存するピッチャーになる自分が想像できるか”と聞くと、チャプマンは悪戯っぽい笑顔を浮かべてそう答えた。この点に関しても、ファンも同じ思いかもしれない。すでにギネスブックにまで名を残した“キューバン・ミサイル”。30代後半になっても、いつまでも、ときに100マイルを投げ込み、スピード違反の真っ直ぐで飛ばしまくって欲しいものである。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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