サンウルブズ流主将、苦悩の末の初勝利 「チームが離れそうになることも…」

斉藤健仁

ジョセフHCに日本人選手との会話増を提言

チームは勝てない試合が続いていたが、流はコミュニケーションをとり続けた 【斉藤健仁】

 また流は「チーム作りは15人、23人だけでなく、メンバー外の選手がどういう思いを持っているかが大事です。チームが2局化というか、離れそうになることもあった」と連敗中の苦しい実状を吐露した。

 50人近くの大所帯で、7カ国という多国籍な選手がそろい、コーチングスタッフはジョセフHC、トニー・ブラウンコーチなど外国人が中心。メンバーとメンバー外では練習もスケジュールも違う場合や「JAPAN A」に参加するためにチームを離れた選手もおり、コミュニケーションの絶対量が不足。外国人コーチと、自ら英語で意見を伝えることができず、心の中でためてしまう日本人選手の間の意思の疎通がうまくいっていなかったようだ。

「全員が集まったとき、共有できていないと感じた部分もありました。ジェイミー(・ジョセフHC)に(メンバー外の日本人と)もっと話をした方がいいと言ったこともあります」(流)

 そこでジョセフHCは、4月からサニックス(現・宗像サニックス)時代からの盟友で、キャンペーンディレクターという肩書きでスタッフ入りしていた藤井雄一郎氏にGMとして入閣を要請(宗像サニックスの事情もあり、サンウルブズに帯同したのは5月12日のレッズ戦まで)。ジョセフHCと日本人選手のパイプ役の一人となった。
 さらに流は長谷川慎スクラムコーチの協力も得て、4月と5月の上旬の2度、一緒にご飯を食べに行き「日本人でチームを良くするにはどうしたらいいかと意見を出し合ってもらった」という。

「リーダー陣も含めて、本当にたくさんの人に助けられました。布巻(峻介)はメンバー外が続いている中でも士気を上げる声かけをしてくれたり、練習を引っ張ってくれてチーム作りを助けてもらっています」(流)

ジョセフHC「勝ち方を考えていく姿は感心していました」

レッズ戦で激しいディフェンスを見せるサンウルブズ 【写真:築田純】

 その一方、課題だったディフェンス、ラインアウトは徐々に改善していくなどパフォーマンス自体は上がっていた。4月のニュージーランド遠征では、昨年の王者クルセイダーズ(11対33)、一昨年に優勝したハリケーンズ(15対43)と、後半途中まではいい勝負を演じた。結局9連敗となったが、流はネガティブにならず、前を向き続けた。

「スーパーラグビーはタフできつい。(トップリーグと)ゲームの強度も違う。いいパフォーマンスをできたと思う試合もありましたが、勝てないという葛藤があり難しかった。ただこういったことも経験になりますし、初めて(のスーパーラグビー)ということを言い訳にしたくなかった。どれだけパフォーマンスが悪くてもチームが負けても次の試合が来るので、いい準備を積み重ねることだけを考えていた」

 迎えた東京・秩父宮ラグビー場での最終戦となった5月12日のレッズ戦。ジョセフHCが「今日は選手たちが集大成を出してくれた」と言うように、勝利の要因はセットプレーやディフェンスが安定していた、SOヘイデン・パーカーが12本中12本のプレースキックを決めた、キックをまじえてトライを挙げたなどいろいろあるが、流は「いい準備ができたから勝てた」とキッパリと言った。

 ジョセフHCもそれを十分承知しており、「タフな厳しい期間が続き、負けが込むと選手たちの自信喪失につながるが、そういう苦しいときでも、試合の次の日にしっかり反省し、検証して次の試合の勝ち方を考えていく姿は感心していました。流キャプテンはじめとするリーダーたちが引っ張っていた」と選手らを褒め称えた。

「これから6勝するチャンスがある」

初勝利に喜びながらも次の試合を見据えている 【斉藤健仁】

 5月9日、日本ラグビー協会は2019年ラグビーワールドカップに向けて第1次トレーニングスコッド(代表候補選手)を発表、もちろん、その中に流の名はあった。またラグビー日本代表は6月にはイタリア代表(2試合)、ジョージア代表とのテストマッチを控える。

 当然、流のラグビー選手としての目標は「ワールドカップで桜のジャージーを着てプレーすること」である。今年の苦しい経験は、「9連敗したのは人生でも初めてなので、プラスにしていくしかない。(日本代表でプレーしても)余裕が出てくると思うし、プレーの幅も広がっていると思う」と言うように、今後に向けても大きな糧となるはずだ。

 ただサンウルブズのキャプテンの一人として、流はまだ日本代表へ頭を切り換ることはできていない。今季初勝利はサンウルブズにとって大きな自信となったことは明らかであり、試合はまだまだ続いていく。流は「これで強くなったと勘違いすることなく、ホームでの勝利の価値を上げるために次の試合が大事になってくる。これから6勝するチャンスがある。海外で勝ったことがないので、ぜひ勝ちたい!」と目前の試合に集中している。

 流は帝京大時代から「逆境は人を生かし順風は人を殺す」という言葉を大事にしてラグビーに真摯に向き合ってきた。165cmとチーム最少の身長ながら、タフな状況でも常に先頭に立って100%の準備を怠らない姿勢こそがサンウルブズ、そして自身の成長につながっていく。

2/2ページ

著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント