未成熟なサウジアラビアは課題が山積み わずか1年で3人目の監督と挑むW杯

河治良幸

1年足らずで2度の監督交代を経験

サウジアラビアの指揮を執るピッツィ監督。W杯まで1年を切ったタイミングでの監督就任となった 【Getty Images】

 日本代表がワールドカップ(W杯)本大会の2カ月前にヴァイッド・ハリルホジッチ監督を解任して話題になっているが、W杯ロシア大会に出場するアジア5カ国のうち、イランを除く4カ国が本番まで1年を切ってから監督を代えている。その中でもサウジアラビアは2度の監督交代を経験した。

 振り返れば1994年の米国大会で3カ月前に就任したホルヘ・ソラーリ監督に率いられたサウジアラビアは、サイード・オワイランの60メートルドリブルからのゴールなどもあり、奇跡的なベスト16進出を果たした。その経験が監督の首をすげ替えることへの抵抗をなくしてしまった部分はあるかもしれない。今回の監督交代はやや事情が異なるが、そうした体質がもたらした結果でもあるだろう。

 15年夏からチームを率い、アジア予選で苦しみながらも3大会ぶりの本大会に導いたオランダ人のベルト・ファン・マルバイク(現オーストラリア代表監督)がコーチングスタッフの処遇や国内滞在の義務などを不服として電撃退任。そこから予選途中までアルゼンチンを率いていたエドガルド・バウサが引き継いだが、11月の2試合で欧州王者ポルトガルに0−3、ブルガリアに0−1で敗れると、協会は2カ月で解任に踏み切った。

守備も課題が多いが、攻撃はさらに深刻

ベルギーとの親善試合ではルカク(左)に2点を決められるなど、0−4の惨敗を喫した 【Getty Images】

 結局、本大会までの半年間を任されたのは元スペイン代表のフアン・アントニオ・ピッツィ。アルゼンチン出身の名ストライカーで、バレンシアやアルゼンチンの強豪クラブを指導した経験を持つ。16年にはチリを率いてコパ・アメリカ・センテナリオ優勝を果たしたが、南米予選で成績が振るわず、予選敗退に終わっていた。

 協会は国際Aマッチデーではない2月末と3月頭に親善試合を行い、ピッツィ新監督はチームのポテンシャルと戦力の見極めを行った。欧州の小国モルドバとの試合は3−0で勝利したものの、本大会出場を逃したライバルのイラクに1−4で大敗し、攻撃的なサッカーを押し出すことの難しさを思い知らされた。3月のウクライナ、ベルギーとの親善試合では従来の主力に国内リーグで目を付けた新戦力を加え、スペインのレバンテで経験を積んでいるファハド・アル・ムワラドを起用するなど、より実戦的なテストを進めた。

 ウクライナには押し込まれながらも何とか1失点で耐え、アル・ムワラドのゴールで1−1の引き分けに持ち込んだが、本大会でも躍進が期待されるベルギーとの試合では前半に大型FWロメル・ルカクの2発を浴び、後半にもミシー・バチュアイ、ケビン・デ・ブライネに決められ0−4で惨敗を喫した。

 中盤が劣勢な中で耐え切れなかったディフェンスにも課題は多いが、攻撃はより深刻だ。ウクライナ戦では、ゴール前の混戦からアル・ムワラドが押し込む形で1点を取ったが、それ以外はほとんどチャンスらしいチャンスを作れなかった。ベルギー戦に至っては、後半に相手が多くの主力を下げる展開でありながら、結局、シュートは2本しか記録できなかった。よりリスクをかけて攻めればチャンスは増えるかもしれないが、その分守備面でのリスクが増える。チリで豊富な運動量をベースにチームを作り上げていたピッツィは、サウジアラビアのスペックに向き合っていかなければならない。

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著者プロフィール

セガ『WCCF』の開発に携わり、手がけた選手カード は1万枚を超える。創刊にも関わったサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』で現在は日本代表を担当。チーム戦術やプレー分析を得意と しており、その対象は海外サッカーから日本の育成年代まで幅広い。「タグマ!」にてWEBマガジン『サッカーの羅針盤』を展開中。

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