未成熟なサウジアラビアは課題が山積み わずか1年で3人目の監督と挑むW杯

河治良幸

アジアの中では最も恵まれた組み分けだが……

開催国ロシアと同組のサウジアラビア。アル・サハラウィ(写真)らセンターラインのメンバーは固まっている 【Getty Images】

 サウジアラビア協会は1月にスペインとのパートナーシップの一環として、9人の選手をリーガ・エスパニョーラの1部や2部の7クラブに期限付き移籍させることを発表した。6月末までの契約で費用はすべてサウジアラビア側が負担することになった。その中で代表クラスの有力選手は、アル・ムワラド(レバンテ)、サレム・アルドサリ(ビジャレアル)、アル・シェフリ(レガネス)の3人だが、公式戦の出場はない。3月の親善試合を見る限りでは大きな影響は感じられないが、プロジェクトが成功しているとも言いがたい。

 本大会では開催国ロシアと同じグループAに入っており、そのロシアと開幕戦を行う。さらに南米の強豪ウルグアイ、リバプールで得点を量産中のモハメド・サラーを擁するエジプトと戦うスケジュールだ。アジアの5カ国の中では最も恵まれた組分けだが、3戦全敗もありうる。極端に守備的な戦いをピッツィ監督が選択すれば、協会から不満が飛び出しかねないが、少なくとも現実を見て、奇跡を起こすためのプランニングを選択していくしかないだろう。

 ピッツィ監督はファン・マルバイク時代の「4−2−3−1」を踏襲しそうだ。ベルギー戦の前半と後半でGKを交代するなど、限られた時間の中で選手をテストして正GKを見極めようとしているが、オサマ・ハウサウィ、オマル・ハウサウィのセンターバック(CB)コンビ、運動量豊富なボランチのアブドゥラー・オタイフ、司令塔のタイシール・アル・ジャッサム、1トップのモハンマド・アル・サハラウィといったセンターラインは固まっており、左右のサイドバックとサイドアタッカーも充実している。

 充実していると言っても、それはアジアレベルでの話だ。昨年のAFCチャンピオンズリーグで浦和レッズとファイナルを戦ったアル・ヒラルのメンバーが約半数を占め、アル・アハリの選手も多い構成だが、インターナショナルの経験が不足しすぎている。個々の局面での能力はそこまで低くないが、中盤のインテンシティー(プレー強度)が高い試合で素早い攻守の切り替わりやプレッシャーにかかるとベルギー戦のように全体が間延びし、ゴール前でCBコンビの“Wハウサウィ”が体を張るしかなくなる状況に陥りやすい。

実情から考えれば、躍進の可能性は低い

実情を考えれば、サウジアラビアの躍進の可能性は低いが…… 【Getty Images】

 グループAにベルギーのような中盤で圧倒してくる相手はいないが、ロシアのフィジカル的な強さやウルグアイのタイトなディフェンスと、効率よくスペースを突いてルイス・スアレスやエディンソン・カバーニにつなげる速攻、エジプトの鋭利なカウンターといった各国のスペシャリティーに対して、王道的な戦い方で対抗するのは現実的ではない。ピッツィ監督としては、耐える時間帯と多少リスクを負って攻めに出る時間帯を見極めるべきだろう。

 前半は自陣で守備を固めて、うまくボールを奪えれば前線にロングボールを入れて一発のカウンターを狙う。相手に疲労が見えてきた後半の時間帯に、スピードのあるアタッカーを投入して、前半よりは厚みを加えた攻撃で点を取りにいく。その中で、いい位置でのFKを獲得できれば大きな得点チャンスになる。サウジアラビアの選手はボールの持ち方が独特であり、相手が強引に奪いに行こうとすると、うまく倒れてファウルをもらいやすい。そうした強みも駆使して、何とか得点を狙っていきたい。

 もともとポテンシャルが高くない上に、予選後の監督交代で組織的な熟成も他の参加国より低い。そうした実情から考えればサウジアラビアの躍進は考えにくい。何が起こるか分からないのがW杯ではあるが、ピッツィ監督は非常に難しい采配を迫られそうだ。

2/2ページ

著者プロフィール

セガ『WCCF』の開発に携わり、手がけた選手カード は1万枚を超える。創刊にも関わったサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』で現在は日本代表を担当。チーム戦術やプレー分析を得意と しており、その対象は海外サッカーから日本の育成年代まで幅広い。「タグマ!」にてWEBマガジン『サッカーの羅針盤』を展開中。

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント