「自分とサンフレッチェは似た境遇」 広島・城福浩監督インタビュー<前編>

飯尾篤史

昨季残留争いに巻き込まれたチームを再建しつつある城福。ここまでチーム作りと、その成果を聞いた 【写真:飯尾篤史】

 2016年シーズンまで5年間で3度もリーグ優勝を成し遂げながら、昨季は残留争いに巻き込まれたサンフレッチェ広島が、再び強さを取り戻した。J1リーグ第9節が終わった時点で8勝1分けの無敗。2位に勝ち点9差をつけて首位を独走している。

 チームを再建したのは、今シーズンから指揮を執る城福浩監督だ。06年にはU−16日本代表をアジア王者へと導き、3大会ぶりとなるU−17ワールドカップ出場権を獲得。09年にはFC東京でヤマザキナビスコカップ(現ルヴァンカップ)を制覇し、12年にはヴァンフォーレ甲府で24試合無敗のJ2新記録を樹立するなど、その手腕が高く評価される一方で、2度の解任にも遭った。

 栄光と挫折を経験したという点で、「自分とサンフレッチェは、似た境遇にいる」と語る指揮官に、ここまでチーム作りと、その成果を聞いた。(取材日:4月10日)

条件をはるかに上回るものを感じた

――昨年、いくつかのクラブからオファーを受けたそうですが、その中から広島を選んだのは、なぜですか?

 まず、最初に声を掛けてくれたのがサンフレッチェで、この順番というのは自分にとって大きかったです。去年、(日本サッカー)協会で1年間お世話になったけれど、どうしても現場への未練を断ち切れなかった。でも、果たして現場に戻れるんだろうかという不安がある中で、サンフレッチェが声を掛けてくれた。

 それで、東京で足立(修)強化部長とお会いしたんだけれど、なぜ城福浩なのかを情熱的に、具体的に、論理的に説明してくれた。クラブの成り立ちや歴史から、自分たちが何を大事にしていて、何を取り戻したくて、僕に声を掛けたのかを。それが、僕の中ですごく腑に落ちて。もちろん、条件も大事なファクターなんだけれど、それをはるかに上回るものを感じたんです。

――真っ先に声を掛けてくれたという誠意と、パッションと、ロジックと。

 そうですね。協会で引き続きということも含め、選択肢があるのはとてもありがたいことだったけれど、自分らしくやること、それが大事だと思っていたので、その可能性が一番あるのがサンフレッチェかなと。

 あと、サンフレッチェの予算規模って中位よりも下ですよね。それなのになぜ、好成績を残せるんだろう、何か理由があるんじゃないか、というのは、これまで対戦しながら思っていたことなんです。インサイドに入れるということは、その理由を知ることができるんじゃないかと思ったし、そんなクラブから声を掛けてもらえるなんて光栄だなという気持ちもあって、お世話になることにしました。

――チームが始動する前に、何人かの選手たちと面談をしたとうかがいました。彼らの話を聞いて、どんな印象を持ちましたか?

 クラブに長く在籍している選手たち数人、全体の4分の1くらいの選手と会ったんだけれど、彼らが昨年の戦いをどう感じているのかを聞くと同時に、俺はこう感じているよ、ということを伝えることも大事だろうと。だから、1節から最終節まで全試合、彼らの気持ちがどんな変遷をたどったのかを想像しながら見たうえで、必要なシーンをピックアップしました。34試合の中から厳選して8シーンくらい、時間にして5分くらいの映像を用意して面談に臨んだんです。

全員がシステムのことを気にしていた

昨年は残留争いに巻き込まれ、選手たちは苦しみ、もがいていた 【(C)J.LEAGUE】

――5年で3度もリーグ制覇したチームが、昨年は残留争いに巻き込まれ、苦しいシーズンを送ったわけですが、選手たちは自分たちがなぜ残留争いに巻き込まれたのかを冷静に分析できていたのでしょうか。それとも、なぜこうなってしまったのか分からない状態でしたか?

 どちらかと言うと後者で、もがいている状態というのかな。まず、チームとしてどう感じながら戦っていたのか、プレーヤーとしての自分はどうだったのかを聞かせてもらった。その後、俺は苦しんだ要因をこう見ているよ、というのを伝えて、ちょっと映像を見てみようかって。

 ただ、そのときにうれしい驚きだったのは、誰ひとりとして、チームや監督、チームメートのせいにしなかったこと。ただただ純粋に、自分がどうすればよかったのかが分からない、と悩んでいたんです。6年間で3度も優勝しているんだから、去年がたまたまダメだった、と思っている選手がいてもおかしくないのに、そういう選手がひとりもいなかった。こういう集団だからこそ3度も優勝できたんだろうな、と感じました。あと、面白かったのは、そのときに全員が同じことを聞きたがっていたこと。

――何ですか?

 システムはどうするんだろう?ということ。これは選手だけでなく、クラブ関係者も、サポーターも、メディアもそうだったんだけれど、「3バックでいくんですか? 4バックですか?」と。特に選手たちは気にしていた。それによって自分が出られなくなる可能性があるわけだからね。でも、選手全員をピッチの上で見る前に、システムなんて決められない。だから、僕は映像を見せながら、システムとは関係のない次元の話をしたんです。

 その映像というのは、攻撃について2分半、守備について2分半ぐらいだったかな、良いところも課題の部分もピックアップして、それを元に「ここはできているよね」「ここはこうしなきゃいけないよね」と話して、「これって、システムとは関係ないでしょ」と。それは、ものすごくレベルが高いけれど、ベーシックなこと。彼らも納得してくれたんじゃないかと思います。

――ちなみに、そのレベルの高いベーシックとは何でしょう?

 それを明かすのは、シーズン中だから難しいんだけれど(笑)、そのベーシックは今も言い続けていて、別に100も200もなくて、せいぜい10個くらいのこと。試合後には必ずフィードバックしているから、選手のコメントの中にもよく出てきます。

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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