「自分とサンフレッチェは似た境遇」 広島・城福浩監督インタビュー<前編>

飯尾篤史

2節が開幕戦というイメージだった

キャプテン青山には、守備のベースを作った上で攻撃を積み上げていく考えを伝えたという 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

――これまでの会見でも話していらっしゃいますが、守備からチーム作りに着手されたと。ただ、サンフレッチェはこれまでつなぐスタイルを極めてきたチームなので、そうしたチーム作りの手法に、選手たちは拒否反応を示さなかったのでしょうか?

 もちろん、守備だけをするつもりはなくて、さっき話したように、選手に見せた映像も攻撃と守備の両方を用意していました。一方で、黒星が先行しながらチームを作っていくのは、これまでの経験上やはり難しい。

 それに攻撃と違って守備は、意識を高めれば向上していくものだし、逆に、FWが定まらないのに攻撃の形から入るのもナンセンス。ヴァンフォーレ甲府時代(12年シーズン)も、ダヴィの1トップが定まって、ダヴィを生かすことから逆算して攻撃を作り直して24戦無敗を記録した。だから、まずは守備のベースを作った上で、誰が前線に入るのか、誰が攻撃の核になるのか見定めて、攻撃を積み上げていく。そういう手法を採ったんです。

――そうした話は選手たちにも、詳しく説明したのでしょうか?

 キャプテン(青山敏弘)だけには言ったかな。

――1月22日の始動というのは、J1の18チームの中で最も遅いタイミングでした。これは就任前にすでに決まっていたそうですが、準備期間が短い上にタイ遠征を行い、トレーニングマッチやプレシーズンマッチを6試合も行いました。試合をしながらコンディションを高め、試合勘を取り戻し、チーム作りを進めるのは初めてだと思いますが、その手応えは?

 まず、池田誠剛(フィジカルコーチ)というスペシャリストの存在が大きいです。ただでさえ始動が遅いのに、雪で5日間、(練習場の)吉田(サッカー公園)に行けなかった。やれるメニューは限られていたし、冷蔵庫の中みたいなところから30度のタイに行って、暑熱順化もしないといけない。ゲームもある。ということは、いつ上げて、いつ落として、ここでは走らせて、という見極めが重要になる。

 それに、こうした状況でもわれわれは、選手たちが今までに経験したことのないくらい良いコンディションまで引き上げたかった。それには、誠剛のプランニングが大きかったんだけれど、実はそれでも開幕には間に合わなかったんです。

――と、言いますと?

 最高のコンディションでシーズンを迎えるには、どうプランニングしても開幕には間に合わない。試合をして、走って、落として、試合をして、というサイクルの最後が開幕戦になってしまう。だから、(開幕戦の北海道)コンサドーレ(札幌)戦が終わったあとも、素走りをガンガンやって、最後の仕上げに入った。

 そういう意味では2節の(浦和)レッズ戦が開幕戦というイメージだった。でも、だからといって、開幕戦を落としていいわけではないし、ポジティブな雰囲気で1週間を過ごすためにも勝利が必要だった。それくらいギリギリの勝負だったから、コンサドーレ戦では内容は二の次、勝つことがすべてだったんです。

積み上げてきたものがようやく出てきた

――ここまで、アプローチの鋭さやトランジションの速さが際立っています。「靴1足分」というキーワードも聞かれますが、どのようにして選手に植え付けたのでしょう?

「靴1足分寄せろ」というのは、毎日言っていることだけれど、大事なのは、選手が納得することと、いつ・どこでするのかをチームで共有すること。何も考えずに寄せれば、ワンツーで置き去りにされることもあるわけで、やらなければいけないケースと、それができないケースとを整理しないといけない。

 例えば、トランジションの速さというのは高いレベルのベーシックなんだけれど、敵陣でボールを奪われて、ボール周辺の選手がプレスやスペースを埋める方法を間違えて、全員が自陣に50メートル帰る羽目になったシーンを映像で見せる。逆に、奪われた選手の切り替えやディフェンスラインの事前の押し上げによって奪い返して、ショートカウンターを繰り出したシーンも見せる。それで、「どちらがチームにとって有益だと思う? ここで3秒頑張ったり、事前に準備をしておくことで、帰陣に使っていたエネルギーを攻撃に使おうよ」と。

――それは映像を見せながら。

 映像を見せて、トレーニングに落とし込んで。要は、われわれはどのエリアでサッカーをしたいのか、ということ。そう考えれば、おのずと何をしなければいけないのかが整理されていく。「倒れるまでやれ!」と言うのは簡単だけれど、それで選手が本当にやるのかと言えばやらない。でも、チームにどんなメリットがあるのか納得すれば、選手は進んでやるようになる。今、そういう状態に近づいてきたと思います。

――4月8日の第6節・柏レイソル戦では、右サイドを中心にコンビネーションによる崩しが増えて、サポートも的確になってきたように見えました。3月末のインターナショナルマッチウイークで攻撃のトレーニングにかなり時間を割いたのではないでしょうか?

 たしかに、インターナショナルマッチウイーク中は攻撃を重点的にトレーニングしました。でも、10日間くらいで攻撃がすぐに良くなるかといったら、そうじゃない。プレシーズンからやってきて、開幕してからも積み上げてきたものが、ようやく出てきたということ。(5節の)川崎フロンターレ戦の後半も、ある程度、出ていたんじゃないかと思います。

――川辺駿選手を投入したあたりからですね。

 今はまだ、相手が疲れてきて、オープンの状態になったらやれるという段階だけれど、理想は90分間、主導権を握ってボールを動かしたいと思っている。でも、大事なのは守備のレベルを落とさずにそれをやること。そこはチャレンジし続けたいですね。

――以前、城福さんは「ドルトムントがゲーゲンプレッシングを90分間できるのは、奪った後のつなぎが正確だから」とおっしゃっていましたが、攻守一体のクオリティーということですね。

 そう。フロンターレは昨年、素晴らしい守備をして優勝したけれど、彼らの体力が増したのかと言うと、そうじゃない。彼らはボールを奪った後のクオリティーが高いから、行ったり来たりの展開にならないし、ボールを簡単に失わないからマイボールのときに息を整えることができる。それに、相手を押し込んでいるから、ボールを奪われても一気に奪い返しにいける。

 そこは、われわれも目指しているところ。6、7年かけて成熟しているフロンターレとはまだレベルが違うけれど、今いるメンバーの最大値を探りながら、高い強度でボールを奪いに行くときと、マイボールで落ち着かせるときとのメリハリをもっと効かせられるようにしたいと思っています。


 キャプテンの青山やジュビロ磐田から復帰した川辺ら選手たちとどう向き合っているのか。現場から離れたこの1年半は、城福監督にとってどのような時間だったのか。後編(4月24日掲載予定)では、その想いをお届けする。

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著者プロフィール

飯尾篤史

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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