ドイツ4部でもがく浅野拓磨が胸中を語る 今の境遇、W杯への思い、ハリルへの感謝
「言ったからにはやる。やれたから自信がつく」
W杯出場を決めた昨年8月のオーストラリア戦で貴重なゴールをゲット 【Getty Images】
「強気なメンタルは子どもの頃からずっとですね。うまい奴は周りにゴロゴロいましたけれど、それでも負けたくない気持ちが常にありました。周りから見ると自分の方が劣っていても、『俺の方が上や』って心の中で思う。過信しているのではなくて、常に自分に言い聞かせているんです。自分の方が上だと思っていたら、それ以上の練習ができなくなる人もいると思うんですけれど、僕はそうではなかった。『アイツには絶対に負けたくないから、今頑張らないと』と、毎日全力を尽くしていた。
またプロサッカー選手になってからは、メディアの方がいるから言葉で思いを発する機会が多くなったんですよね。自分の気持ちを明らかにしなければならない場面が出てきた。言ったからにはやる。やれたから自信がつく、この繰り返しだったんです。もし目標を達成できなかったとしても、そのために全力を尽くすメンタリティーは、言葉にして発することによってより強くなったんじゃないかな。
世界を見て、海外に出て、難しいなと感じることはとても増えましたけども、それでも言葉を発することの大切さを学んだからこそ、難しいと感じていることでも、自分ならできると言い聞かせている。本当はすごいビビっていたとしても、なんにもビビっていないかのように、胸を張ってコメントしています(笑)」
期待値が高まって変わった環境
海外や代表での経験は、浅野にとって大きな財産になっている 【島崎英純】
「誰も僕のことをサッカーがうまいとは思っていないでしょうね。スピードだけだと思っている方もたくさんいるでしょう。そういう声に関しては、『なにくそ』という気持ちはあります。でも、代表に入る前まで、特に(サンフレッチェ)広島の頃の僕は『俺にボールをよこせ!』と思っていて、周りの選手と比べても自分が下手だとは思っていなかった。目の前の相手に負ける気がしなかったですもん。
でも代表に入って、海外に来て、その期待値が高まってからは環境が変わった。以前は周囲が僕に期待しているのが分かっていて、どんなプレーをしても『おおっ!』と言ってくれていたんです。例えば、僕が途中出場でピッチに立つことを日本中の皆が待望しているのを感じた。でも、それがなくなったときに、ひとつのステップを踏んだんだなと思った。その期待値の大きさが変わってきているんだなって。常に期待されて、常に結果を残す。海外や代表の舞台ではそれが当たり前で、その要求は厳しい。それを実感するようになったんです。
結果を残せなくなった時に、こういう環境に置かれる選手はたくさんいると思います。その中で壁を登れるか、登れないかは人それぞれ。僕は、その壁を登れる自信はありますよ。未来が楽しみだとも思っている。たぶん、それを乗り越えたらいつか、またデカイ壁が目の前に現れると思うんですけれど、そのときは今の経験を生かせばいいんですよね」
浅野がミスをしたときに笑うわけ
「サッカーって面白いな」。自然と笑みがこぼれる 【Getty Images】
日本代表のゲームでミスを犯したとき、浅野が笑みを浮かべたことがあった。その真意を、本人に聞いた。
「笑いたくて笑っているわけじゃないんです。自然にそういう表情になってしまう。試合中もよく、めっちゃ笑っていることがある。それは小さな頃の写真を見てもそう。普通は試合中に笑うことなんてないじゃないですか。『俺、なんで笑ってるんやろ』って自分でも思う。でも無意識なんですよ。『うわー、やっちゃった』とか、『俺、下手くそやなー』と思って、その上で、『やっぱり、サッカーって面白いな』という笑いなのかな。
ただ、勘違いしてほしくないのは、僕、ふざけてるやつは大嫌いなんです、真剣にやっていないくせにヘラヘラしているやつは大嫌い。サッカーに打ち込んでいないやつには『何で笑ってんの?』って思います。そのヘラヘラとは違う。
でも僕、学んだんです。日本代表のように日本中の方が見ているゲームでミスをしたときに笑っちゃ駄目だなって。いろいろな見方をする方がいる。選手が頑張っている姿に勇気をもらいたい人、単に勝負に勝ってもらいたい人、夢を追いかけるために見る人、いろいろな事情、見方があるんですよね。だから今はミスしてしまったときに『あかん、笑うな』って頭の中で考えている。今後はミスしたときに笑わないと思います。僕も自分で写真を見て思いますもん。『お前、笑いすぎや』って(笑)」
素直で率直な心は、必ずや認知を得られる。そこに虚飾がない限り、人々の心へと必ず届く。今が暗い闇の中でも、明日は輝かしい太陽が昇る。その願いの先に、あの“頂”があると信じている。
ドイツ南部のシュツットガルトにもようやく春がやってきた。市内中心部のシュロス広場では芝生に寝転んで日光浴する人々の姿が目立つ。穏やかで静謐(せいひつ)な空気に、太陽の光が降り注ぐ。
浅野拓磨は、ここで生きている。この街から、世界の舞台に打って出る覚悟を決めている。シュツットガルトでの境遇は確かに厳しい。それでも彼は諦めていない。ヨーロッパでの飛躍を、ロシアでの躍動を、輝ける未来を。朗らかに、それでも真摯(しんし)に、情熱を宿して。
満面の笑みをたたえる彼の頭上には、鮮やかな、桜のような花が咲いていた。