浅野拓磨、ドイツでも変わらぬ信念 「ゴールを逃した場面は絶対に忘れない」

島崎英純

前半戦で13試合出場2得点を記録

ドイツに来て約3カ月、浅野は左ウイングのポジションをつかんでいる 【写真:アフロ】

 街を行き交う人々の口から白い息が吐き出されている。ドイツ南西部、バーデン=ヴュルテンベルク州の州都であるシュツットガルトにも本格的な冬の季節が到来した。シュツットガルト中心部のシュロスプラッツ(宮殿広場)周辺ではドイツ国内でも最大規模を誇るクリスマスマーケットが開かれ、地元民や観光客が数多く訪れて盛況を博している。

「ドイツのクリスマスマーケットではグリューワインというホットワインを飲むんですよ。そのワインを飲むコップはドイツ各地のマーケットごとに絵柄が違っていて、観光客の方などはいろいろな場所のクリスマスマーケットに行ってコップを集めるみたいです。でも、僕はお酒が飲めないのでコップを集められない(笑)」

 そう言って、浅野拓磨は快活に笑った。

 彼が2016年8月下旬にシュツットガルトへ降り立ってから約3カ月が経過した。7月に契約を締結したイングランド・プレミアリーグのアーセナルではイギリス国内でプレーするための労働許可が下りず、経験と実績を築き上げる目的でドイツ・ブンデスリーガ2部に所属する名門クラブの門をたたいた。

 シュツットガルトはリーガ1部優勝経験があり、あまたの名選手を輩出したドイツ伝統のクラブだ。しかし昨季は不調にあえいで2部降格を喫し、今季は1シーズンでの1部復帰を至上命令にして戦っている。しかし今季就任したばかりのヨス・ルフカイ監督が開幕から公式戦5試合を消化したところで突如辞任を表明。そこでクラブはボルシア・ドルトムントのユースチームを率いて高い実績を残したハネス・ボルフ監督に新たな任を託した。

 ボルフ監督は35歳と若く、今回初めてブンデスリーガのトップチームを率いる。しかし最近のドイツサッカー界は野心的で戦術構築に長けた若手監督が数多く台頭していることから、周囲はボルフ監督に大きな期待を寄せている。そして浅野は、この新体制の中で主に4−2−3−1の左ウイングを任され、ウインターブレイクに入る前の第17節終了現在で13試合出場2得点を記録している。

細貝「もっともっと点を取れる」

ここまで2得点を記録しているが、細貝は「もっともっと点を取れる」と期待を寄せる 【写真:アフロ】

 シュツットガルトには浅野と同郷の日本人プレーヤー・細貝萌が在籍している。ブンデスリーガでの経験が抱負な彼に、今の浅野の状況について聞いてみた。

「シュツットガルトの選手の能力は高い。リーグの中で上位を狙えるクラブに在籍している選手は、他のクラブとは状況や環境が違う。拓磨にしても、上位のクラブに在籍していれば多くの得点チャンスに絡めて点を取れる。今の拓磨は自らの能力を発揮しやすい立場にある。だから、これからもっともっと点を取れると思う。僕は、拓磨はこのシュツットガルトで最低でも15点くらいは取ってもいいと思う」

 シュツットガルトの攻撃を担う1トップのシモン・テローデはペナルティーエリア内で力を発揮する屈強なフィニッシャーで、周囲とのコンビネーションにも長ける。また浅野とは逆サイドに位置する右ウイングのカルロス・マネは浅野と同様にスピードに優れ、積極的に敵陣ゴール前へ突入するアグレッシブなアタッカーだ。そしてゲームキャプテンを務めるクリスティアン・ゲントナーはかつて、長谷部誠らとともにボルフスブルクでリーガ制覇を達成した。アカデミーからトップチームに上り詰めたシュツットガルトに帰還してからはミドルエリアでフリーロール的に動き回って味方をけん引するチームの象徴である。

 アンカーの細貝が左太もも肉離れや右足小指骨折で度々戦線離脱を余儀なくされていることから守備のオーガナイズが拙く失点数が多いのは不安だが、それでもシュツットガルトはブンデスリーガ2部の中で常にトップグループに位置して、し烈な昇格争いを繰り広げている。

違和感なくチームに溶け込む

シュツットガルトのホーム、メルセデス・ベンツ・アレーナ。ドイツでの生活にはすっかり慣れた 【島崎英純】

 そんな中、現在の浅野は先発出場を続け、どんなゲームでも数回はゴールチャンスを得ている。しかし、前述したように彼のゴール数はまだ、それほど積み上がっていない。

 浅野はクラブのオーナー企業で、市内に大工場群を有するメルセデス・ベンツの車を運転している。日本から来た当初の浅野は左ハンドル、右側通行のドイツの交通規則に戸惑っていた。路上に縦列駐車するこちらの慣習にも四苦八苦し、何度もハンドルを切り替えて隙間に車を滑り込ませようとするも、車体をぶつけてしまいそうで萎縮していた。でも今は当地での運転にも慣れ、スムーズな取り回しで軽快にシュツットガルトの街中を愛車で走っている。

「何事も経験ですね。ただ、慣れた頃が一番危ないと言われますからね。余裕を持ちながらも慎重に。何かの標語みたいですけど(笑)」

 普段の浅野は穏やかで朗らかな人物だ。柔和な表情を崩さず、声を荒げることもなく、落ち着いた佇まいで接する。チームメートとコミュニケーションを取るときも静謐(せいひつ)な雰囲気をまとっている。まだドイツ語や英語の習得には苦しんでいるが、簡単な会話や動作で仲間と淀みなく触れ合っている。初めての海外生活であることを忘れるくらい、今の浅野はチームの一員として違和感なく溶け込んでいるように見える。

1/2ページ

著者プロフィール

1970年生まれ。東京都出身。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当記者を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動。現在は浦和レッズ、日本代表を中心に取材活動を行っている。近著に『浦和再生』(講談社刊)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信。ほぼ毎日、浦和レッズ関連の情報やチーム分析、動画、選手コラムなどの原稿を更新中。

新着記事

スポーツナビからのお知らせ

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント