ドイツ4部でもがく浅野拓磨が胸中を語る 今の境遇、W杯への思い、ハリルへの感謝

島崎英純

ブンデス4部でプレーする日々

苦境の中でもがくシュツットガルトの浅野が、その心境を語ってくれた 【島崎英純】

 ホームのメルセデス・ベンツ・アレーナでシュツットガルトのトップチームがブンデスリーガ第30節でハノーファーとのゲームを行う1時間半前。浅野拓磨は、シュツットガルト近郊の小高い山並み、市内中心部を網羅するテレビ塔のふもとにある「ガジ・スタディオン・アウフ・デア・ヴァルダウ」のピッチに立っている。レギオナルリーガ(ブンデス4部)で首位を走るザールブリュッケンを相手に、シュツットガルト・セカンドの一員としてプレーしている。

 19分、相手の背後から猛然と詰め寄ってボールを奪取すると、ヒールキックで22歳のニコラス・セッサにラストパスを通す。セッサが鮮やかな先制点を決めると控えめに笑顔を浮かべて仲間の元へ駆け寄った。チームはその後1点を返されるも、再びセッサがゴールを決めて2−1で勝利した。それでも、彼の目指すべき頂は別の場所にある。今の境遇をかみしめながら、それでも前だけを見据えて闘っている。(取材日:4月9日)

自分がいない中、チームが好調なのが「悔しい」

サンフレッチェ広島からドイツにわたって2シーズン目を戦う 【島崎英純】

 浅野は2018年初頭のウインターブレーク明けのキャンプで恥骨炎を発症し、その後ベンチ入りメンバーから外れた。成績不振でハネス・ボルフ監督が解任され、新たにタイフン・コルクト監督が就任してもチーム内での立場は変わっていない。

「今は恥骨炎も完治しています。全然問題ないですよ。試合に出してもらったら、結果を残せる自信はあります。でも監督が代わって、選手補強もして、チームも成績が上向いたこともあって、今の自分の立場は厳しいものになっています」

 コルクト監督就任後のシュツットガルトは第29節でドルトムントに敗戦を喫するまで5勝3分けと無敗を堅持し、順位も10位まで上がった(第30節終了時点)。チームが好調を維持する中で、浅野はジレンマを抱えながら日々を過ごしている。

「チームの調子が良いことを、僕はプラスに捉えていなかった。やっぱり僕も選手として試合に出たい。そのためにはやるべきことがたくさんありますけれど、チームの流れが変わらないと監督も新たな方策は求めないですよね。僕個人としては、チームが勝って雰囲気良く戦っていることに関しては、正直に言って悔しいです。

 プロサッカー選手は自分自身が結果を残さなければ生き残れない世界で、チームの調子が良いからといって満足している選手は1人もいないと思うんですよね。そこはしっかり自分の中で整理しています。チームが勝つことはもちろんうれしい。でも、自分は悔しい。その思いを隠すことはできない」

「今は正直、何が正解かが分からない」

ブンデス1部でプレーした最後の試合は昨年12月のバイエルン戦 【写真:アフロ】

 足掻き、もがいた先に何があるのかは分からない。ただ、それでも浅野は、日々の取り組みこそが最も重要であることを理解している。

「今は正直、何が正解かが分からない。ただ言えることは、今、取り組んでいることをやり続ける。練習に対する姿勢、練習が終わった後のシュート練習、ジムのトレーニングなどは決して怠ってはいけないと思っています。境遇や立場が良くないときだからこそ、日常の日々に変化を加えることなく、やり続けようと思った。海外に来て初めて、こんな感情が生まれたんですよね。今までは駄目だったら『もっとやらないと。もっとやらないと』と思っていたんです。

 でも、今の僕が備えているもの、今まで得てきた成果を、まずは100パーセント引き出す努力をしないとすべてが始まらない。チャンスが来たときに、それをモノにできる準備ができるように。冷静になって物事を考える。それが大事だなと」

 決意のような言葉とは裏腹に、彼は悩んでいるようにも見える。本当にこれで良いのか。続けた先に未来はあるのか。

「このままで良いのかと思って、練習をし過ぎてしまう日もありますよ。良くないときって、冷静に振る舞うのが難しいんだなって思いました。調子が良いときは皆、何でもやり続けられますよね。新しいことをする気も起きる。でも、そうではないとき、状況が厳しいときに、自らの意思を保つことって、簡単じゃないんだなって……」

W杯出場は「まったく諦めていません」

今年3月は代表に招集されず、W杯のメンバー入りは当落線上に 【島崎英純】

 所属チームで出場機会を得られなければ代表チームからも外されるのは当然だ。サッカーを生業(なりわい)とするプロにとって、生活の糧となる賃金を得るクラブが最も重要な対象で、国の威信を背負って戦う代表は、その成果の先にある栄誉である。

「代表を外れたことは妥当だと思っています。外れたことは驚きじゃない。ただ、外れた悔しさは当然あります。代表の活動に参加できないことの悔しさ、もどかしさを初めて感じました。3月のベルギー遠征は、代表に選ばれるようになってから初めて選出されなかったから。ワールドカップ(W杯)に行けないんじゃないかとは考えないですけれども、その可能性が十分にあるという危機感を覚えた出来事でした。W杯は4年ごとの大会。でも、今の僕はロシアしか見ていない。夏に開催されるW杯で、日本代表の一員として戦う。それが僕の中のひとつの目標だから。

 ただ、そんなに簡単な世界じゃないことは分かっています。だからこそ皆にチャンスがある場だと思うので。だから、まったく諦めていませんよ。今の自分がシュツットガルトで試合に出られなくてどん底にあることは理解していますけれども、つまりは成長していく道しか目の前にはない。そう思っています」

「ハリルさんと良い出会い方をした」

浅野はハリルホジッチ前監督の下でA代表の仲間入りを果たした 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 日本代表は今、危機に瀕している。大会を2カ月後に控える中で、日本サッカー協会がヴァイッド・ハリルホジッチ監督との契約を解除し、技術委員長を務めていた西野朗氏を後任の指揮官に据えた。ハリルホジッチ前監督に見初められて代表キャップを刻んだ浅野は、今回の監督交代をどう感じているのだろうか。

「びっくりしました。ハリルホジッチ監督は確かに難しいところもありましたけれど、僕は、あの監督とW杯へ行きたいなと、素直に思っていました。ハリルホジッチ監督だからこそ、僕を代表に選んでくれていたと思うんです。ベルギー遠征のメンバーから外れたときも僕の名前をあえて出してくれましたけれど、僕はそれをポジティブなことだと捉えていた。『俺を見てくれているんやな』と。

 人間というのは、お互いがどんな出会い方をするかで好き嫌いが分かれると思う。僕はハリルさんと良い出会い方をした。ただ、僕は以前の代表チームを経験していないのでなんとも言えないですよね。さまざまな選手がさまざまなことを感じているのは、これまでの時代の代表を経験して、それと比べることができるから。だからこそ、良いか悪いかの判断もできるのかなと。

 でも僕は今回の代表が初めてで、初めての緊張感の中で、すべてが新鮮で、だからこそネガティブなことよりも前向きなことしか感じなかった。その中で(W杯最終予選の)オーストラリア戦などで得点して結果も残せましたしね。だからハリルさんと一緒に戦えないのは残念。誰がなんと言おうと、僕はそう感じています」

 普段は常に柔和な表情で、相手への気遣いを欠かさない好青年なのに、サッカーに関する話をすると頑ななまでに我を通す。ハリルホジッチ監督への思いも、彼の中では揺るぎがないのだ。誰がなんと言おうと、浅野拓磨はヴァイッド・ハリルホジッチという指揮官の下で成長を果たした。だからこそ、その感謝を忘れず、想いを胸にピッチへ立つ。

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著者プロフィール

1970年生まれ。東京都出身。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当記者を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動。現在は浦和レッズ、日本代表を中心に取材活動を行っている。近著に『浦和再生』(講談社刊)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信。ほぼ毎日、浦和レッズ関連の情報やチーム分析、動画、選手コラムなどの原稿を更新中。

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