山中慎介が今明かすネリ戦の舞台裏「腹が立って寝られなかった」

山本智行

MBSの番組に出演した山中。収録後、改めてネリ戦への思いなどを語ってくれた 【写真提供:毎日放送】

 わずか3日前に都内で引退会見を開いたばかり。紺色ストライプ柄のスリーピースで登場したボクシングの元世界王者・山中慎介は心なしか緊張気味に映った――。

 山中は毎日放送のスポーツトークバラエティー「戦え!スポーツ内閣」(4月18日放送)に出演。スポーツナビは引退後のテレビ初収録に同行し、収録後に現役最後の相手となったルイス・ネリ(メキシコ)戦の舞台裏や、気になる今後を聞いた。

受け入れられなかった初戦の敗戦

 まずは現在の心境、近況は。

「寂しさもあるけれど、気持ちはスッキリしています。今は、テレビ番組に出たり、取材を受けたりして忙しくしています。家族との時間はこれからですかね。ただ、今までなら試合から2日後にはロードワークを開始していました。それを思うとね。現役時代、あれだけ嫌だったのに、朝起きて、『もう走らなくていいんだ』と思ったら何だかすごく寂しかった。うれしいのはごはんを普通に食べられることぐらいかな」

 心残りがないと言えば、ウソになるだろう。「スッキリしています」。これは山中の本音だろうが、私には自分に言い聞かせているようにも感じられた。

「自信があった」と話すネリとの初戦。ネリのドーピング疑惑もあり、山中にとっても後悔のある内容だった 【写真は共同】

 なんの因果か、巡って来た12歳年下のメキシカンとの対戦。山中のレコードの最後には不条理な黒星が2つ並ぶ。日本人の世界王座最多防衛タイ記録も懸かっていた初戦は地元京都で4回TKO負けだった。

「これまで同様、当たり前のように勝つつもりでした。自信もありました。それが突然の敗戦。受け入れられずにいたところに相手のドーピング疑惑が浮上。ここで辞めてしまえば、一生後悔すると思いました。それに(セコンドの)ストップも早かったですしね。負けたのは認めますが、あの負け方では辞められない。納得できていなかった。実際に効いたパンチはなかったし、あの時点ではネリのパンチは軽いと感じていました」

 拳を交えたものにしか分からない感触。決して強がりだとは思わない。だが、あの日のリングにいたのは絶対王者の山中ではなかった。本人も薄々ながら自身の衰えのようなものを感じていたのかもしれない。明言こそしていないが、取材していると、そんなニュアンスが伝わってきた。

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著者プロフィール

やまもと・ちこう。1964年岡山生まれ。スポーツ紙記者として競馬、プロ野球阪神・ソフトバンク、ゴルフ、ボクシング、アマ野球などを担当。各界に幅広い人脈を持つ。東京、大阪、福岡でレース部長。趣味は旅打ち、映画鑑賞、観劇。B'zの稲葉とは中高の同級生。

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