山中慎介が今明かすネリ戦の舞台裏「腹が立って寝られなかった」
武井壮が代弁する悔しさ
山中が「ふざけるな」と思ったというネリの計量。その日は眠れないほど腹が立ったと振り返る 【写真は共同】
確かに、ネリの一件は言語道断、スポーツマンとして許されるべき行為ではなかった。山中の気持ちも揺れたはずだ。
「本当に腹が立ちました。『ふざけるな』と。はかりに乗るとき、ネリは両手を挙げ、そろりと乗ったんですよ。2キロもオーバーするのに、ですよ。あれは普通、ギリギリの選手がすること。そんなことせんと『はよう、走って来いや』。あのとき、一番腹が立ちました。腹が立って、その日の夜は寝られませんでした」
2.3キロの超過が分かったときのやるせなさ。「ふざけるな!」と山中が会場で思わず怒鳴り、控え室でやり場のない怒りに涙を流した。決められた体重で戦うボクシングへの裏切り。引退という言葉をしまい込み、この試合にすべてを賭けていた山中の思いは踏みにじられた。だが、試合は慣例のように興行される。山中は「もし、『(試合を)どうする?』と聞かれていたら『やらしてください』と言いましたね。ネリに勝ちたいから」と即答した。しかし、結果はワンサイドの2回TKO負けとなった。
「ウーン、あの結果は体重差なのかどうか。自分の衰えなのか。言えるのはコンディションは良かったが、最初のパンチが効いた。あれがすべてです。いろいろな原因はあるでしょうが……」
試合後は異常な雰囲気になった。覚えていることは「ネリと健闘をたたえて抱き合うことができなかったことかな。普通、ボクサーはどんなに憎い相手でも試合後にハグするのにね。それが悲しかったです。どうしてもそんな気持ちになれなかった」
自身の引退戦を踏みにじられながら言い訳を一切しなかった山中の潔さ。その思いを代弁した男がいた。
「山中さんは一度も負けていない」
陸上・十種競技の元日本チャンピオンでタレントの武井壮はネリ戦を振り返っている際、感情を抑えきれず、みるみるうちに顔はくしゃくしゃになり、思わず号泣。「番組であんなになったのは初めてですよ」(武井)。これを受けた山中も「うれしかった。スポーツ愛が伝わった」とウルッとなった。
いまだに秘めた、ボクサーとしての鋭さ
「試合直後は感謝の気持ちだけでした。リングを降りるときもそう。実際、引退という言葉が浮かんだのは控え室に帰ってからですね。勝っても辞めるつもりでしたが、それを公言すると力が落ちていくと思った。周りもそんな目で見ますしね。ただ、調整している過程で後悔はなく、1日1日大事にしている自分がいて、それができた。こなしている感覚はなく、やりきれたからスッキリした気持ちだった。試合には負けたけれど、自分には勝てたかな、と思う。それが引退の決め手です。ボクシングを始めたときは世界チャンピオンになることが目標だった。それが12回も防衛できましたから、幸せなボクシング人生だと思いますよ」
ボクサーは孤独との闘いとも言うが、山中には愛する家族がいた。「これがラストマッチというのは嫁さんも感づいていたのでは」と山中は言った。愛妻家で子煩悩。家族の話を聞くと、なにげない日常を思い出したのか、顔が少しにやけた。
「無事に試合を終えて、一番ホッとしているのは妻でしょう。どうしてもボクシング中心だったから、近いうちに家族旅行に出掛け、のんびりしたいですね。子どももボクシングの怖さが分かる年ごろになっていますが、その向こうに、すばらしさがあることも伝えていこうと思っています」
気になる今後については、「まだ決まっていない」という。しかし、ボクシングから離れるつもりはなさそうだ。
「実は今度は右構えで練習するつもりなんです。もともと野球も右だったから。ロードワークも始めるつもりです。だらしなく太るのは嫌ですから」
取材の最後に“神の左”はどんなものなのか。山中にリクエストすると意外なほど気さくに応じてくれた。「帝拳の本田(明彦)会長にも当てたことがあるんです」と話すと、気を遣ってくれ、スローな動き。その割には思った以上に左腕が伸び、その拳はいかにも硬そうだった。対峙(たいじ)した目も怖いほど鋭かった。
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■MBS毎日放送「戦え!スポーツ内閣」
4月18日(水)23:56〜24:53
【写真提供:毎日放送】
今回は、先日プロボクサーを正式に引退した山中慎介が、引退会見後初のテレビ番組収録に臨む。テーマはズバリ「アスリートの引き際」。引退に至った経緯や、ルイス・ネリとの再戦を振り返り、思いのたけを赤裸々に語る。
<放送局>
TBC東北放送・TUYテレビユー山形・SBC信越放送・RSK山陽放送・NBC長崎放送・TYSテレビ山口(同時刻)
HBC北海道放送(1時間遅れ)