正直者の桜花賞・フィニフティ 「競馬巴投げ!第166回」1万円馬券勝負

乗峯栄一

正直者は最後に報われるという寓話

[写真1]アンヴァル 【写真:乗峯栄一】

 古代ギリシアのイソップ寓話にある「金の斧」の話は有名だ。

 斧を池に落とした樵夫(しょうふ)が困っていると、美しい女神ニンフが池の中から現れて(オリジナルはヘルメスという筋肉ムキムキの男性神だったらしいが、この場合はやっぱり女神がいい)「あなたが落とした斧はこれですか?」と金の斧を示す。

「いえいえ、私が落としたのはそんな高価な斧ではありません」と正直者の樵夫が答える。

 次に女神は銀の斧を持って現れ「ではこれですか?」と聞く。「いいえ、違います」と樵夫がまた首を振る。

 三度目に女神が鉄の斧を持って現れると「それです。女神さま、ありがとうございます」と礼を言う。感動した女神は「お前は何という正直者なのだ」と言って、金の斧も、銀の斧も、鉄の斧もすべて樵夫に与えるという話だ。正直者になりなさい。正直者は最後に報われるという寓話だ。

「正直者」とは真実を語る人間のことを言うのではない

[写真2]アンコールブリュ 【写真:乗峯栄一】

 つまり、論理的にちょこっと整理してみると、この場合四種類の“真相”が想定される。

(1)鉄の斧を落として「私が落としたのは金の斧です」と言う。
(2)金の斧を落として「私が落としたのは金の斧です」と言う。
(3)鉄の斧を落として「私が落としたのは鉄の斧です」と言う。
(4)金の斧を落として「私が落としたのは鉄の斧です」と言う。

 一目瞭然、(2)(3)が真実を言っているのだから正直者であり、(1)(4)は「鉄→金」、「金→鉄」と虚言を弄しているのだから嘘つきということになる。

 しかし現実はそうではない。(2)「金の斧を落として“金の斧”を落とした」と言う人間はまあ普通の人間だと言われる。(3)「鉄の斧を落として“鉄の斧”を落とした」と言う人間は“なかなか正直だ”と言われる。一番評価されるのは(4)「金の斧を落としているのに“私が落としたのは鉄の斧です”」と言う人間だ。

(4)の人間は、それが明らかになったとき、まあ、何て正直者なの。マーベラス! アメイジング!と大谷翔平のように大絶賛を受ける。

 つまり「正直者」とは真実を語る人間のことを言うのではない。

○自分に不利益になることを言う。
○孤独の中で一人言い続ける。

 この二つをなす者を“正直者”と言う。したがって、正直者は往々にして孤独の中で死んでいく。

 去年夏、加計学園問題で「政治の圧力で行政が歪められた」と主張する前川前文科省事務次官と「うんにゃ、そんなことはしとらん」と主張する政府官邸の秘書官やら副長官やらがゾロゾロと20人ほど出てきて、一応論争らしきものがあり、「新しい証拠・証言は出てきていないから20人の方が正しい」と簡単に結論が出た。

「お前ら、イソップ寓話読んで来い」と思った。誰が真実を言ってるかが問題じゃないんだ。

○誰が自分に不利益になることを言っているか。
○誰が一番孤独なのか。

 その二つを考えれば「正直者が誰か」はすぐに分かるだろうが。

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著者プロフィール

 1955年岡山県生まれ。文筆業。92年「奈良林さんのアドバイス」で「小説新潮」新人賞佳作受賞。98年「なにわ忠臣蔵伝説」で朝日新人文学賞受賞。92年より大阪スポニチで競馬コラム連載中で、そのせいで折あらば栗東トレセンに出向いている。著書に「なにわ忠臣蔵伝説」(朝日出版社)「いつかバラの花咲く馬券を」(アールズ出版)等。ブログ「乗峯栄一のトレセン・リポート」

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