【UFC】実力者NO.1決定戦は4度目の中止 ホロウェイ緊急出陣で“無敗男”と激突
ファーガソン対ヌルマゴメドフ、4度目のキャンセル
トニー・ファーガソンが欠場となり、急きょマックス・ホロウェイ(右)がハビブ・ヌルマゴメドフ(左)と対戦することになった 【Zuffa LLC】
「これはエイプリルフールのジョークではない。トニー・ファーガソン(米国)が負傷のため、試合ができなくなった。しかし、良い知らせもある。フェザー級王者の猛者マックス・ホロウェイ(米国)が立ち上がってくれた。ホロウェイがハビブ・ヌルマゴメドフ(ロシア)とライト級正王者の座をかけて戦う」
日本時間4月8日(日)に開催予定の「UFC 223」のメインイベントでは当初、UFCライト級暫定王者のファーガソンにヌルマゴメドフが挑戦するタイトルマッチが予定されていた。真の実力者ナンバーワン決定戦と目されるマニア垂ぜんのこの試合、記者会見でお互いを罵倒し合うなど決戦ムードが高まる一方だったが、他方でこの試合は過去に3度、試合直前にケガや減量失敗により試合が流れた経緯があり、ファンの間では、今回こそは無事に試合が行われるようにと祈るような気持ちが広がっていた矢先のことだった。
4回目のキャンセルを受けて代打出場となるフェザー級チャンピオンのホロウェイは前回、2017年12月の「UFC 218」で、元同級王者ジョセ・アルド(ブラジル)を第3ラウンド、ノックアウトで下している。さらに3月の「UFC 222」ではフランキー・エドガー(米国)を迎えての防衛戦が予定されていたが、ホロウェイの足首の負傷により試合は流れていた。
立ってホロウェイ、寝てヌルマゴメドフ
しかし、ホロウェイはグラウンドの攻防をほとんど許さないことで知られている。14年以来、アルド、アンソニー・ペティス(米国)、ジェレミー・スティーブンス(米国)、チャールス・オリベイラ(ブラジル)、カブ・スワンソン(米国)といった殺人ラインアップから合計で27回のテイクダウンを試みられているが、1度も成功させていないのである。
それにしても、ほんの1カ月前には足首の負傷で試合ができなかったのに、わずか6日前の要請で、よりによってヌルマゴメドフとの試合を引き受けるというホロウェイの闘魂には驚くばかりだ。ホワイト会長も「彼はこういうチャンスに立ち上がる男なんだ。もし彼が勝てば、コナー・マクレガー(アイルランド)に次いで、2階級同時制覇を達成することになる」とホロウェイの熱き心を称(たた)えている。
ヌルマゴメドフの男気にも恐れ入る。トレーニングが十分なはずもない、1階級小柄な選手と戦うのである。勝って当たり前、負ければ赤っ恥、せっかくここまで積み上げてきたトップコンテンダーのポジションも失いかねない。それでもヌルマゴメドフはメインイベントの重責を果たすことを選んだのだ。
なお、ホロウェイが今回勝てばUFCで13連勝となり、アンデウソン・シウバ(ブラジル)の持つ16連勝に次いでUFC史上第2位の記録を樹立することになる。
ナマユナス「ヨアンナの打撃は単調で予測可能」
ナマユナス(左)とイェンドジェイチェク(右)が再びベルトを懸けて激突 【Zuffa LLC】
両者は昨年11月の「UFC 217」でも戦っている。当時の王者イェンドジェイチェクは無敵の強さを誇り、ロンダ・ラウジー(米国)が持つUFC女子防衛回数の記録を破らんとする勢いだった。王者の無慈悲な打撃の前に、挑戦者ナマユナスはなすすべもないだろうとの下馬評が専らだったのだ。
しかしながら、フタを開けてみればナマユナスが第1ラウンド3分3秒、ノックアウトでチャンピオンを下し、タイトルを獲得したのだった。これはUFC史上最大の番狂わせの1つである。判定か一本ならまだしも、まさか打撃で勝つとは誰も想像だにしなかったのだ。UFC英語版放送席で解説をしていたダニエル・コーミエが、仕事を忘れて「サグ・ローズ! サグ・ローズ!」(サグはナマユナスのニックネームで“殺し屋”の意)と、まるでファンのように連呼していたのが印象的だった。
試合後、UFC解説者ジョー・ローガンのポッドキャストに出演したナマユナスは、最初からノックアウトは想定内だったと明かしている。
「私は試合前から、自分が第3ラウンドにアッパーカットでノックアウト勝ちするところをビジュアライズしていた。彼女は攻撃的すぎるから、どこかの時点で防御が甘くなると思っていた」
「誰もが彼女をテイクダウンしようとしすぎだと思う。ヨアンナの打撃は“見たこともない”というほどではない。確かに強いんだけど、リズムが単調で、何をやってくるかは全部予測できた」
今回の試合の作戦についてナマユナスは「“モナリザは2度は描けない”と言うでしょう? だから、同じやり方というわけにはいかない。でも同時に、“壊れていないものを直す必要はない”とも言うわけだから、前回通りのやり方と、別のやり方を混ぜてやっていくことになる」と語っている。
また、後に別のメディアでナマユナスは、「ヨアンナは、まず第1ラウンドを生き残ろうとしてくるとみている。私はそんな彼女の顔面にパンチを入れ、バックを取って、今回はチョークで締め落としてやる」と、本音なのか陽動なのか、前回とは異なる作戦の一端を明かしている。
一方、平昌冬季五輪では聖火ランナーも務めた人気者イェンドジェイチェクは敗戦の理由について、一貫して“減量の失敗”をあげている。
「『UFC 217』の試合前、最後の14時間で15パウンドの減量をしなければならなかった。計量に合格した頃には、足の感覚がなくなっていた。でも医者に診せたら点滴を打たれて、試合が中止になってしまうかもしれないと恐れた。気持ちだけで試合に出場していた」
ナマユナスの説明に不思議な説得力を感じつつ、海外の賭け率ではおおむね、実力者イェンドジェイチェクがわずかに有利と出ているこの一戦、女帝同士の身が焦げるようなヒリヒリする勝負に、誰しも魅了されてしまうこと請け合いだ。
(文:高橋テツヤ)
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