ボクシング五輪金を狙う千葉出身・堤駿斗 世界を制するための「練習の三本柱」

善理俊哉

適材適所の練習の軸は覚醒した「想像力」

徹底的に磨いた左ジャブがボクシングにおける堤の触覚を担ってきた 【善理俊哉】

 いかに理論が優れていても、それを実戦で試さなければ習得できない。試合を含めて、それは習志野高での部活に頼った。さらなる根幹にはフィジカルの強さが問われるが、これは父・直樹さんが自宅で担当した。直樹さんはボクシング経験のない「自称素人」だが、発想の起点が良き意味で「ボクシング玄人」と異なる。例えばボクサーが両手に鉄アレイを持ってトレーニングする場合、意識されるのは主に腕力強化だが、堤家では、鉄アレイを持った状態で激しく動き回り、バランスを維持しようとする体幹強化に使われた。

「年齢が低い時期は、インナーマッスルの強化から始めるべきだと思ってきましたが、駿斗の場合、それを続けていくと左右のバランスに短所が残って、これを補強するには専門家から腹筋と背筋の強化が必要だとうかがったんです。それからアウターマッスルを学ぶ段階に入りました。フィジカルを強化する最大の利点は、新しいテクニックを学ぶ期間を短縮させることだと思っています」(直樹さん)

 ジムで理論、部活で感覚、自宅で肉体を強化。現在は、この三本柱すべての前面に堤の「想像力」があると、堤自身が言う。
「国際大会に何度か出ていると、そこで学べる内容が、昔よりハイレベルになってきたのが自分で分かりました。そのイメージのために技術力を高めたり、フィジカルを補強したり、実戦感覚を養えているのが今の練習です」

 今月8日、堤は習志野高を卒業した。翌々日には進学先の東洋大がボクシング合宿を張っている奄美大島に合流するなど、練習場所も、その三本柱から次の段階に入り始めている。

高い目標設定はキックボクシング仲間の影響

自宅での堤家。取材日に不在だった長男と5人家族でボクシングに取り組んでいる 【善理俊哉】

 堤にとって千葉にはこんなバックボーンもある。ボクシングと同時進行でキックボクシングをやっていた時代、練習仲間では、今をときめく“神童”こと那須川天心がリーダー格だった。堤は年齢が1つ上の那須川を今も“天心”と呼んで慕い、「ひとつひとつの技術の完成度に高い目標設定があって、その積み重ねで、瞬きできないようなパフォーマンスを生んでいる」と、憧れの眼差しも送り続けている。

 大学1年目の目標は、今年8月からインドネシアのジャカルタで開かれるアジア競技大会での、日本史上24年ぶりのボクシング金メダル獲得に設定した。これもまた、現実味を帯びてきた五輪金メダルへのひとつの「段階」だ。まさに超エリート志向の堤だが、大学の寮に入って、挫折はまだ特にないか尋ねると、「それが……」と等身大な18歳の言葉が返ってきた。

「服を自分で洗濯したことがなかったので、洗濯機の使い方がいまいち分からなくて(笑)。食事を取っているときも、母の大切さが分かりました」

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著者プロフィール

1981年埼玉県生まれ。中央大学在学中からライター活動始め、 ボクシングを中心に格闘技全般、五輪スポーツのほかに、海外渡航を生かした外国文化などを主に執筆。井上尚弥と父・真吾氏の自伝『真っすぐに生きる。』(扶桑社)を企画・構成。過去の連載には『GONG格闘技』(イースト・プレス社)での『村田諒太、黄金の問題児』などがある

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