「新陳代謝がないチームは強くならない」 代理人・田邊伸明氏インタビュー<後編>

宇都宮徹壱

横浜FMから川崎への「ゼロ円移籍」で話題になった齋藤学(後列右から2番目)について、田邊氏の見解は? 【写真は共同】

 株式会社ジェブエンターテイメントの代表、田邊伸明氏に聞く2018年の移籍トレンドについてのインタビュー。前編では、DAZNマネーがJリーグのクラブに与える影響や日本人選手の海外移籍の傾向について語っていただいた。後編は、日本でプレーする外国人選手の傾向や、地域リーグ以下のクラブに移籍する元Jリーガーが増えた背景に話題を移す。

 周知のとおり、最近のサッカーファンの興味対象は国内サッカーと海外サッカーに大きく二分されており、国内だけを見てもJリーグ、育成年代、JFL以下のカテゴリーなど、さまざまなジャンルに細分化されている。しかし「移籍」というテーマにフォーカスすると、細分化されたサッカー界がひとつにつながっていることを強く実感させられる。

 今回のインタビューでは、横浜F・マリノスから川崎フロンターレの「ゼロ円移籍」で、当該クラブ以外のファンの間でも話題になった齋藤学についても田邊さんに語ってもらっている。当人への猛烈なバッシングの背景には何があったのか。それに対するエージェントの考えは、どのようなものなのか。後編も必読の内容となっている。(取材日:2018年2月7日)

デバイスで世界中の選手をチェックできる時代

スカウティングシステムの発達で、現在では国内外の選手のプレーを簡単に確認できるようになった 【宇都宮徹壱】

――田邊さんが「セカンドグループ」とおっしゃった、欧州5大リーグの下に位置する中堅国、具体的にはオランダとかベルギーとかスイスあたりになりますけれど、そういった国々では、東京五輪世代から下の若い選手たちの評価が高いのでしょうか?

 高いですね。その理由は、DAZNによってドイツやスイスやオーストリアで(Jリーグが)視聴できることも関係があると思います。それとスカウティングシステムの発達で、彼らのプレーを簡単に確認できるようになりました。昔、僕が稲本(潤一)のセールスをしている時は、ビデオの編集機などはないので、外注してVHSのビデオテープにダビングをしてもらっていました。

――しかも欧州だと、NTSCからPALやSECAMに変換しないといけなかったんですよね。

 そうそう、変換にもけっこうなお金がかかって、それをDHLで送ってやっていたわけですよ。それがDVDになり、YouTubeでアップできるようになり、今ではスカウティングシステムを使って、デバイスで簡単に検索して見られるようになったんです。ちょっとお見せしましょう。

(田邊氏、デバイスを操作する)

 まず、国名と国旗が出てきますよね。ヨーロッパの人間が、日本の選手をチェックしようということで国旗を選択すると、今度はJクラブのエンブレムが出てきます。じゃあ、(北海道コンサドーレ)札幌にしましょうか。すると現在所属している選手のリストが出てきて、福森晃斗を選びます。すると、福森のプロフィールと映像リストが出てくるんですね。プレーの映像についても「ゴール」「アシスト」「パス」「ロングレンジパス」といったものが選択できると。

――すごいですね! このサービスは、何という会社が提供しているんですか?

 これはWyscout(ワイスカウト)というイタリアの会社ですね。ハイライト映像が自動的に生成されて、オートマチックビデオレポートやフルマッチも見ることができます。

――わざわざ現地まで行かなくても、ある程度は映像で選手のプレーを把握できるわけですね。

 そうです。しかもウズベキスタンとかコソボとか、かなりマニアックな国のリーグも入っていますし、AFC U−16(選手権)とかUEFA(欧州サッカー連盟)ユースリーグとか、育成年代の大会もカバーしているんですよ。月々30〜40万円くらいは払っていますけれど。

――それでも現地に行く時間とコストを考えたら、安いものですよね。

 それもありますし、圧倒的に業務のスピード化にもつながっているんですよね。おそらくJ1クラブのほとんどが、こうしたシステムを導入していると思います。

外国人選手の「ステップアップの場」としてのJリーグ

岐阜に加入したニュージーランド代表のライアン・デ・フリース。J2やJ3にもさまざまなバックグラウンドを持った外国人選手が増えてきた 【(C)J.LEAGUE】

――こうしたシステムの導入によって、外国人選手の獲得時に選択肢の幅が広がるというのは、Jクラブにとっても悪くない話ですよね。実際、少し前までは「外国人」といえばブラジル人か韓国人が多かったですが、今ではマケドニア人もウズベキスタン人もマラウイ人もいる。横浜FMから浦和レッズに移籍したマルティノスも、キュラソー代表です。

 彼はオランダでは(年俸は)安かったはずですよ。確か1200万円くらいで、横浜FMでは2500万、1回契約更新して4000万、浦和に移籍して8000万ですからね(いずれも推定年俸)。売り込む方も、「このタイプの選手は、こういうリーグでは好まれる」ということが分かっている。おそらくマルティノスに関しても「ワイドなアタッカーで、スピードもキープ力も技術もそこそこあるから、Jリーグならハマる」と思ったんでしょうね。

――そうした情報が共有しやすくなることで、ミスマッチも減っているわけですね?

「獲って失敗だった」というのは減っていると思います。選手からしても、自分の実力に合ったところからスタートして、評価と価値を高めていくことができる。ラファエル・シルバだって、スイス(ルガーノ)では2000万くらいで、(アルビレックス)新潟では3500万から4500万くらい。浦和に移って9000万くらい。そして今度は中国(武漢卓爾)。おそらく3億から4億はもらえるのではないでしょうか。

――そうして考えると、ヨーロッパでは無名だった選手が、Jリーグをステップアップの場として価値を上げていくケースは、今後も増えていきそうですか?

 定着はしていくと思います。海外から来る選手と日本人選手との一番の違いは、「サッカーは仕事」と思っていることなんですね。サッカーが続けられるというのは、自分の価値を高める、すなわちサラリーがより上がる可能性を追求することに、とことんフォーカスするんです。逆に日本人選手で、そこの部分を突き詰めて欧州に行く選手がどれだけいるか。おそらくゼロですよ。逆にインドスーパーリーグ(イーストベンガル)に行った遊佐(克美)なんかは、かなり例外的な日本人選手ですよね。

――確かに。私もインタビューしましたが、彼ほどハングリーな日本人はなかなかいませんよね。「サッカーは自分にとって仕事ですから」と言い切っていましたから。話を戻しますが「Jリーグをステップアップに」ということで言えば、何もJ1クラブでなくてもいいわけですよね。最近はJ2やJ3でも、興味深いバックグラウンドを持った外国人選手が増えてきました。

 今季、FC岐阜に来たニュージーランド代表のライアン・デ・フリースは、ウチの会社に売り込みがあったのがきっかけでした。実はオークランド・シティ時代に、日本で開催したクラブW杯に出場していたことが分かって、それからトントン拍子でしたね。ですから、クラブW杯やJリーグのアジア戦略、そしてDAZNの影響もあって、これからますますこういった移籍は増えていくと思います。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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