平昌で8年ぶり金メダルの新田佳浩 「うれしさより……」好敵手へ思い馳せ涙

宮崎恵理

クロスカントリースキー10キロクラシカル立位で金メダルを獲得した新田佳浩 【写真は共同】

 平昌パラリンピックも残り2日となった3月17日は朝から青空が広がっていた。アルペンシア・バイアスロンセンターでクロスカントリースキークラシカルが行われ、男子立位の新田佳浩(日立ソリューションズ)が10キロクラシカルで金メダルを獲得した。

 新田は、すでに14日のクラシカルスプリントで銀メダルを獲得している。クラシカルは新田の得意種目である。特に10キロはもっとも“狙っていた”種目だった。2010年バンクーバー大会でも10キロ、スプリントで2個の金メダルに輝いている。8年ぶり、2度目の栄冠だ。

序盤に転倒もラストスパートで力を発揮

序盤に転倒はあったものの、そこから巻き返しラストスパートでトップまで駆け上がった 【写真は共同】

 レースは3.3キロのコースを3周する。男子立位に出場する24人のうち、新田の出走順は22番目。新田の前にはソチパラリンピックのバイアスロン15キロ金メダリスト、グリゴリー・ボブチンスキー(ウクライナ)が、新田のすぐ後ろにはソチのクロスカントリースキー20キロクラシカルで銀メダルを獲得したイルッカ・トゥミスト(フィンランド)が控える。トゥミストは06年トリノ大会からずっと新田とメダルを争ってきた好敵手である。

 午前10時26分、新田がスタートした。直後、上りの入り口でつんのめるように転倒した。スタンドに詰め掛けていた日本の応援団の声援が一瞬、止まる。しかし、新田はすぐに起き上がると、力強く勾配を駆け上がっていった。

 転倒というアクシデントがあったが、1周目トップのボブチンスキーに5秒6のビハインドで追いすがっていた。しかし、2周目にその差が11秒に広がった。しかも、トゥミストが新田を捉え、5秒前を走っていた。

 最後の1周。上りのところにいたコーチから「グリゴリーに迫っている。食らいつけ」という情報を得た。新田は、ここから怒涛の追い上げを見せた。勝利を確信したのは、残り1.5キロ地点。この4年間つきっきりで指導してくれた長濱一年コーチから「グリゴリーに2秒勝っている」と聞いた時だったという。そこからさらにギアを上げてゴールを駆け抜け、24分06秒8でフィニッシュ。ボブチンスキーを9秒6上回っていた。

「転倒したけれど、10キロは始まったばかり。そもそも、レース前半で勝負するのではなく最後までしっかりスピードをキープする戦略を考えていたので、冷静にレースに戻れました。ラスト1周、前を行くグリゴリーが前半に飛ばし過ぎてペースが落ちていることが分かった。そこからスパートをかけました」

 ラストスパートで力を発揮するために、この4年間強化してきた。特に国立スポーツ科学センターを利用できることになり、集中した低酸素トレーニングをシーズン中に行ったことで、最後まで力を振り絞ることができた。だからこそ、グリップワックスの効果より、板を滑らせるワックスを優先することを、ワックススタッフに伝えたのだった。

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著者プロフィール

東京生まれ。マリンスポーツ専門誌を発行する出版社で、ウインドサーフィン専門誌の編集部勤務を経て、フリーランスライターに。雑誌・書籍などの編集・執筆にたずさわる。得意分野はバレーボール(インドア、ビーチとも)、スキー(特にフリースタイル系)、フィットネス、健康関連。また、パラリンピックなどの障害者スポーツでも取材活動中。日本スポーツプレス協会会員、国際スポーツプレス協会会員。著書に『心眼で射止めた金メダル』『希望をくれた人』。

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