平昌で8年ぶり金メダルの新田佳浩 「うれしさより……」好敵手へ思い馳せ涙

宮崎恵理

ライバル・トゥミストの結果に涙も

レース後はライバルだったトゥミストの結果を思い涙を見せる場面も 【写真は共同】

 ミックスゾーンに現れた新田は、目を赤く潤ませていた。

「勝ったうれしさより、イルッカ選手がこのレースが個人として出場するラストレースだった。ずっと互いに切磋琢磨(せっさたくま)してやってきたからこそ、僕もここまでやって来られました。最後に一緒に表彰台に立ちたいと思っていたが、それができなかったことが残念で……」

 再び、涙で言葉が途切れた。

 34歳のトゥミストは、新田と同じ上肢障害の選手でありクラシカルを得意とする。バンクーバー、ソチでメダルを獲得する活躍を見せ、平昌ではスプリントクラシカル3位で新田とともに表彰台に上がった。

 1年前、北海道・札幌でワールドカップが行われた際、札幌の市街地を2人並んでランニングをしながら、ゆっくり会話した。
「お互い、年齢も上がってきた中でどんなトレーニングをしているのかとか、彼は最近家業の牧場の手伝いをしているといった話をしていました」

 平昌でのラストレース、一時、新田を上回ったトゥミストは40秒ビハインドの5位でゴールした。

最終日はミックスリレーで若手へバトンタッチ

4年前は見せられなかった金メダルを長男の大翔くんに「帰国してからゆっくり見せてあげたい」と話した 【写真は共同】

 初めて出場した長野パラリンピックから20年。
「日本チームは荒井(秀樹)監督のもと、すべてのパラリンピックでメダルを獲得してきました。その流れを止めたくない。スプリントクラシカルでとにかく銀メダルを確保できました。ただ、自分が欲しいのはその色ではない。その思いで、今日に臨みました」

 バンクーバーの金メダルと、平昌の金メダル。
「バンクーバーの時は絶対に取りに行くと決めて獲得した金メダル。今回は、自分の力を出し切ることが最も重要だと思って臨み、その結果として獲得できた金メダル。4年間しっかり準備をしてきたこと、そして最後まで力を出し切れたことがよかったと思っています」

 4年前、メダルを持ち帰ることができずに傷心のまま成田空港に到着すると、長男の大翔くんが手作りの金メダルをかけてくれた。
「今回、レースが終わってすぐに会うことができましたが、その時はまだメダルはもらっていません。帰国してからゆっくり本物の金メダルを見せてあげたいと思います」

 最終日、新田は出来島桃子(新発田市役所)、阿部友里香、川除大輝(ともに日立ソリューションズ)とともに4×2.5キロミックスリレーに出場する。金メダルの滑りを、勢いを、彼ら若手選手にバトンタッチしていくのだ。

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著者プロフィール

東京生まれ。マリンスポーツ専門誌を発行する出版社で、ウインドサーフィン専門誌の編集部勤務を経て、フリーランスライターに。雑誌・書籍などの編集・執筆にたずさわる。得意分野はバレーボール(インドア、ビーチとも)、スキー(特にフリースタイル系)、フィットネス、健康関連。また、パラリンピックなどの障害者スポーツでも取材活動中。日本スポーツプレス協会会員、国際スポーツプレス協会会員。著書に『心眼で射止めた金メダル』『希望をくれた人』。

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