チェルシーを苦しめた“メッシの守備” カウンターでチャンスを量産したバルサ

清水英斗

前半3分、衝撃的だったメッシの先制点

前半3分に決まったメッシの先制点。これでチェルシーの心が折れることはなかったが…… 【写真:ロイター/アフロ】

 現地時間3月14日に行われたチャンピオンズリーグ(CL)決勝トーナメント1回戦の第2戦。前半3分、それは衝撃的な立ち上がりだった。ウスマン・デンベレとのワンツーで、リオネル・メッシがペナルティーエリアへ侵入。デンベレのリターンパスは相手DFに当たったが、こぼれ球をルイス・スアレスが巧みに流し、抜け出したメッシが角度のないところから右足でシュート。GKティボ・クルトワの股を抜き、ゴールネットを揺らした。

「あの角度からメッシがシュートを打ってくるとは思わず、足を閉じるのが遅れてしまった。私のミスだった。GKにとって、足の間は最も弱いところだ。忌々しいよ」と、クルトワは『BT Sport』のインタビューで答えている。

 クルトワが意表を突かれた要因はさまざまだ。まず、スペースへ抜け出す瞬間、メッシはチラッと中央を見ている。この目線フェイクは、GKクルトワの予測を誤った方向へ誘導するのに一役買った。その後も、回転数の高いメッシにしては珍しいほどの大股でアプローチし、勢いのままに右足をぶつけてシュート。このリズム変化も読みにくい。そして言うまでもなく、右足はメッシの利き足ではない。角度、右足、目線フェイク、リズム、時間帯。すべてが意外性を伴う先制ゴールだった。

 しかし、この衝撃的なゴールがチェルシーの心を折ったのかと言えば、そんなことはない。逆だろう。ホームの第1戦を1−1で引き分けたチェルシーにとって、第2戦は、最初から1得点以上が必須となる。失点したからといって、この試合の最大の目標が変わるわけではなく、むしろチェルシーにとっては、開き直って攻撃に出るきっかけとなった。

厄介だったメッシの“偽のサボり”

前半20分のデンベレの追加点は見事なカウンターによるものだった 【写真:ロイター/アフロ】

 ところが前半20分、攻勢を強めたチェルシーが最終ラインをハーフウェーラインに上げた状態で、再び試合が動く。クリアボールをアンドレアス・クリステンセンが頭でつなぎ、セスク・ファブレガスが受けたところへ、メッシが素早く迫る。プレッシャーをかけてボールを奪い、ドリブル開始。クリステンセンのタックルをかわし、セサル・アスピリクエタを後退させると、ペナルティーエリアへ侵入し、またも“チラッ”と横を見る。今度はパスを出し、がら空きのスペースへ走り込んできたデンベレが、豪快にファーサイドネットを揺らした。

 見事なカウンターだった。メッシはまるで守備のフリーマンだ。バルセロナはメッシがいなくても守備が成り立つように、DF4人とMF4人が「4−4」でブロックを築いているが、そこに時折、ふらふらとメッシがやって来る。サボって歩いていると見せかけ、急に思い立ったように寄せてくるのだ。“偽のサボり”である。

 2点目が決まる前、前半14分にも印象的なシーンがあった。GKクルトワからクリステンセンへパスをつないだところに、ふらふらとメッシが寄せてきた。余裕を持って前を向こうとしたクリステンセンは驚き、慌ててボールを持ち直し、隣のアントニオ・リュディガーに横パスして回避している。

 ハードワークするわけではなく、メッシは急に思い立ったように体を寄せる。そのタイミングは、ボールホルダーの死角に入った瞬間や、相手がトラップするために目線を下げた瞬間など、実にいやらしいものだ。天才ドリブラーは相手をかわすだけでなく、逆にどんなタイミングで、どんな方向からプレスをかければ、最も怖いプレッシャーになるのか。それも熟知している。攻撃のセンスと守備のセンスは、表裏一体。スアレスはもちろん、メッシの守備も、チェルシーにとっては相当厄介だったはずだ。

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著者プロフィール

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合の深みを切り取るサッカーライター。著書は「欧州サッカー 名将の戦術事典」「サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術」「サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材では現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが楽しみとなっている。

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