廣瀬順子が夫婦で描く、2020の野望 “最強コーチ”と新たなスタイル模索

宮崎恵理
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提供:東京都

W杯での敗戦で目が覚めた

昨年10月の敗戦から防御のトレーニングを重視した新しい戦い方を見つけた順子(右)は悠との二人三脚で東京を目指している 【写真:宮崎恵理】

 初めてのパラリンピックでメダリスト。そのプレッシャーは小さくない。世界の強豪たちのマークもきつくなる。リオ大会から1年が経った17年10月、ウズベキスタンで開催されたワールドカップに出場した順子は、準決勝で敗退した。

「それで、改めて目が覚めました」

 それは、コーチ役を務める悠の意識も変えた。

「順子はメダリストですからね。リオ以降、僕は何を教えたらいいか分からなくなって、自分のトレーニングばかりに没頭していたんです」

 1カ月後に控えた全日本大会では、韓国や欧米の選手も参加することになっていた。そこで、納得できる柔道をしたい。少しだけすれ違っていた気持ちが、再び同じ方向に向いた。

「試合では負けたけど、このタイミングで気づけた。すごく意味のある負けだったと思っています」

海外選手を驚かした新たな戦い方

 重視したのは、徹底した防御だ。

「順子は、先に技をかけて勝つタイプ。それが後手に回ると取られる。反対に言えば、相手に技をかけさせない防御を徹底すればいいんです」(悠)

 その防御を具体的に言うと「相手に組手有利にさせないことです」。

「簡単に言うと、動かない。パワーも必要ですし、すごく難しいです」

 順子が、言葉をつないだ。

「コツがつかめるようになるまではすごく難しかったです。全日本の2週間くらい前に練習中に、いつも投げられてしまう相手に対して、ちょっと組み方を変えたら、これだという感覚があったんです。それをそのまま試合に使いました」

 ウズベキスタンでの屈辱から1カ月。順子は全日本大会の57kg級で優勝した。

「教えてもらった防御ができなければ、決勝で韓国の選手に投げられていたと思います」

 全日本大会の後、海外のチームも含めて合同合宿が行われた。

「女子の練習を見に行ったら、順子が海外の選手から“岩”って言われてました(笑)。順子があまりにも強く力を入れているから“アウチ(痛い)!”って」

 組んだら、すぐに技をかける。そういう戦い方をしてきた順子にとっては、全く新しい展開である。

「防御の状態から隙をついて技をかけられるようになることが、これからの課題です」

 コーチの目線で悠が解説する。

「一般の柔道では間合いを図って、自分が良い組手になった瞬間に技をかけるんですよ。先に有利な組手をかけられればいい。それに対して視覚障がい者柔道はお互いが良い組手の状態から始まるので、防御が重要です。順子はキレる技を持っている。“岩”になれて、なおかつキレる技を使えれば最強です」

“金メダルを取ります!”

 リオ以降、悠が練習に没頭していた時期、順子はその側で同じメニューを黙々とこなしていた。

「私の強みは、練習をし続けること、でしょうか。負けても勝っても、練習はちゃんとやり続けられる。その粘り強さですね」

 夫婦で描く、2020。順子が言う。

「やはり二人そろって出場して、そしてメダルを獲得すること。事前のインタビューなどで“金メダルを取ります!”と宣言するくらい、しっかり練習をして臨みたいです」

 悠も語る。

「僕は、その時41歳。最高の自分でその舞台に立てるように準備をしていきます。そして、順子にはやっぱり金メダルを取ってもらえるように、最強のコーチとしても頑張りたい!」

 2人の視線は、どこまでもまっすぐに同じ目標を見つめているのだ。

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著者プロフィール

東京生まれ。マリンスポーツ専門誌を発行する出版社で、ウインドサーフィン専門誌の編集部勤務を経て、フリーランスライターに。雑誌・書籍などの編集・執筆にたずさわる。得意分野はバレーボール(インドア、ビーチとも)、スキー(特にフリースタイル系)、フィットネス、健康関連。また、パラリンピックなどの障害者スポーツでも取材活動中。日本スポーツプレス協会会員、国際スポーツプレス協会会員。著書に『心眼で射止めた金メダル』『希望をくれた人』。

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